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店を出たら、外は少しずつ暗くなりかけていた。早坂とふたりで駅に向かって歩き出す。
「ありがとう乃木。今日はすごく楽しかった」
早坂は俺に感謝してきた。そこで俺は気がついた。
早坂に感謝される=早坂に好かれる=告白ゲームを諦めてくれない、の方程式が成り立ってしまうことに。
「俺は歩き疲れたよ」
せっかく楽しく過ごしたのに、最後にウザいひと言! これで早坂は俺のことを嫌いになるだろう。
「早坂、おぶれよ。俺もう歩きたくない」
これはさらにウザいぞ。誰がDKなんて喜んで背負って歩きたい?! そんな奴いねぇよ。
さすがの早坂も怒るに違いない。
「いいよ。乗って。鞄もちょうだい。俺が持つから」
早坂は俺の目の前でしゃがんで背中を見せてくる。ここにおぶされ、という意味なのだろう。
「はっ、早坂やめとけよ、俺、結構重いし……」
「ごめん。今日は俺に付き合ったせいで歩き疲れたよな。俺なら大丈夫。ほら、おんぶしてもらいたいんだろ?」
うわ、どうする。こいつ、なんで嫌がらないんだよ……。
でも「おぶれ」と言ったのは俺だ。今さらなかったことにはできない。
「じゃ。じゃあ……」
俺は早坂の背中にまたがり、早坂の首に腕を回した。
「もっとしっかり俺に抱きついて」
早坂が立ち上がり、俺にそんなことを言った。
もっと抱きつけって……そんな……。
「ぴったりくっついてくれたほうが、重くないから」
そ、そういうもんなのか。おぶってもらったのなんて、子供の頃以来のことで、俺は緊張して遠慮していたが、早坂の言葉に従って早坂の身体に身を寄せた。
「よし。動くぞ」
早坂はマジで俺をおぶって歩き出した。
信じられない。こんな街中で男が男をおぶっていくなんて……。
しかも俺、ちっさいけど、女ほどは軽くない。
くっつけと言われたから、早坂に抱きついてるけど、すごくドキドキする。
あったかいし、頼り甲斐あるし、普通に歩かなくていいから楽だし、最高だ。
ごめんな、早坂。本当はこんなことしたくないだろうに。
でも、告白ゲームを始めたのは早坂。半分は自業自得だ。
「乃木が俺を頼ってくれてるみたいで、すごく幸せだ」
「へぁっ?!」
急に何を言い出すかと思えば!
「乃木。駅じゃなくて家までおぶろうか?」
「やっ、やめろって! 駅も近くなったら降りるから!」
俺が恥ずかしいわ! 怪我もしてないのにおぶられてるなんて。
「わかった。じゃあ駅の少し手前までな!」
早坂は俺を大切なものかのように扱う。こんな奴が本当にそばにいてくれたらいいのにな。
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