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ピンポーン。
日曜日の昼過ぎに家の玄関のチャイムが鳴った。
パタパタと俺の母ちゃんが玄関に向かっていく。
「早坂くんが来たわよーっ!」
って、ええっ?!
なんで早坂?! 約束した覚えなんてないけど……?!
慌ててリビングから玄関に向かうと、「お邪魔します」と言って早坂が家に上がるところだった。
「早坂?! なんでお前っ……」
「あの、乃木のお母さんが是非遊びに来てって誘ってくれたから……」
「えっ?! 母ちゃん?!」
「だって毎朝、あんたを迎えに来てくれるから、早坂くんにお礼がしたくって」
いつの間にふたりはそんな話をしていたのだろう。
だから母ちゃん、朝から気合い入れて化粧して、家をめちゃくちゃ掃除してたんだな……。
「あの、これうちの母に持っていけって言われて渡されました」
早坂は菓子折りまで持参しており、それを母ちゃんに手渡している。
「あらありがとう! ふたりで食べたら?」
「いえ。お菓子は別に持ってきてますから」
早坂が見せてくれたビニール袋の中にはスナック菓子やらお菓子が色々入っている。
上がるときに靴まで揃えているし、母ちゃんは「なんてしっかりした子なの!」と早坂に感動すら覚えている。
早坂って、所作も綺麗だし、礼儀正しくて本当にすごいな。
とりあえず二階の俺の部屋に早坂を案内する。
浮かれた母ちゃんは、見たこともない、こんなの家にあったんだという綺麗なカップソーサーにふたり分の紅茶を入れて運んできた。
「早坂、なんで遊びに来たんだよ、ウチの母ちゃんの言うことなんて無視していいんだから」
母ちゃんの浮かれ具合からみると、きっと母ちゃんのほうが無理に早坂を誘ったのだろう。
「嬉しかったんだよ。俺、休みの日も乃木と過ごしたかったから。ほら、ポッキー持ってきた。乃木の好きな動画でも見ようよ」
早坂は物静かなくせに、割と遠慮ないところがあるんだな……。
まぁ、どうせ今日もひとりでダラダラ過ごすつもりだったら早坂がいてもいいけど。
俺の部屋には机とベッドしかない。ダラダラする場所といえばベッドの上しかないので、なんとなく早坂とふたり、ベッドをソファ代わりにして座ることになった。
適当にお菓子を食いながら、タブレットで動画を観る。
動画の合間にチラッと早坂を盗み見る。早坂は横顔も完璧だ。
こんなかっこいい奴が世の中に存在していて、しかも俺の隣にいる。
動画を見て、笑ったり切なそうな顔をしたり、表情が変わるさまがまた魅力的だ。
かっこいい。本当にかっこいい。見るたび『好き』という二文字しか浮かんでこない。
——これが、告白ゲームなんかじゃなかったらな……。
今までの早坂の態度や言葉が全部本物だったらよかったのに。
早坂が本気で俺と一緒にいたいと思っていてくれていたらよかったのに。
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