4.本心

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「乃木?」  俺の視線に気がついた早坂がこちらを振り返った。  俺はポッキーを一口食べて、口に咥えたままという間抜けヅラ状態で早坂と視線が合う。 「それ、俺も食べたい」  早坂は俺が咥えていたポッキーの端にかじりついてきた。 「んんっ?!」  え?! こいつ、何を?!  早坂はもう一口かじった。俺の唇までの距離はあと2~3センチ。これ以上近づかれたら、早坂とキスすることになる……!  早坂が俺の頬に手を添わせて目を閉じる。  早く、早く逃げないと……。  でもダメだ。心と身体がいうことをきかない。こんなことしたらダメだって頭ではわかっているのに。  そっと早坂の唇が触れた。 「甘い……」  唇を離して、早坂が俺を見つめながら吐息を洩らした。 「あ……」  ファーストキスだった。それを早坂に許してしまった。ただ触れるだけだったのに、ドクンドクンと心臓がめちゃくちゃうるさくなる。 「乃木。好きだ。俺と付き合って」  早坂のストレートな告白の言葉。  それをぶつけられて気がついた。  俺は早坂を好きになっていた。  早坂と一緒にいたくて、早坂のことをもっと知りたくて、早坂とさっきみたいなドキドキすることをしてみたくて——。  早坂みたいな最強男に狙われて、それに抗うなんて無理だったんだ。  これは告白ゲームだと、どんなに防御線を張っていても、早坂はじわじわと俺の心を染めていき、いつの間にか俺の心は早坂でいっぱいに埋め尽くされていた。  色々画策したのに、結局は早坂の思うツボだ。早坂の手にかかったら、平凡な俺なんてあっという間に落とされてしまった。  この告白は断らなくちゃ。  これを受けたら告白ゲームは終了。早坂は「やっぱり乃木はチョロかったな」とでも言いふらし、あっさり俺を捨てるに違いない。  ゲームだったのに本気になったと波田野たちに笑われ、チョロい奴だと嫌なレッテルを貼られるに違いない。 「嫌だ。早坂とは付き合わない」  必死で勇気と声を振り絞って早坂に向き直る。 「俺たち、キスまでしたのに?」  早坂の綺麗なダークブラウンの瞳が揺れている。そんな懇願するような顔をされても、早坂の告白だけは受けられない。 「あれは、お前が無理矢理……」 「違う。乃木は嫌がらなかった」 「い、嫌だったんだよ!」 「嘘だ。そんなことなかった。乃木だって、俺と同じ気持ちでいてくれたって思ったのに」  早坂に嘘が通じない。全部見透かされている。 「ダメか? 俺はずっと、ずっと前から乃木のこと……」 「ずっとって、早坂と会ってからまだ三ヶ月しか経ってない!」  早坂は何を言ってるんだ?! たった三ヶ月で、ずっと……? 「俺は乃木を諦めたくない。どうしたら俺と付き合ってくれる……?」  どうしたらって……。早坂はしつこいな。そんなにゲームに勝ちたいのかよ。  早坂が、嫌がることを言わなくちゃ。早坂が絶対に断ってくること。 「じゃ、じゃあさ、今すぐ俺を抱いてよ」 「えっ?!」  金縛りに遭ったみたいに、急に早坂の動きが止まった。 「そうしたら付き合ってやる」  どうだ。これはさすがに無理だろう。好きでもない奴と、ただのゲームのためだけにそんなことできるはずがない。  諦めろ、早坂っ! 「……それはできない」  初めて早坂が俺の無理難題を断ってきた。さすがの早坂でも、男を抱けと言われたら無理なようだ。 「今すぐは無理だ。そういうことは、付き合ったあと、ちゃんとしたタイミングでしたい。こんな成り行きみたいなことで、乃木を抱くなんて無理だ」  最もらしい言い訳を考えたようだが、男を抱きたくないだけだろ。  よし! 俺の勝ちだ!  ついに早坂が諦める日がきた!  早坂の思いどおりになってたまるか。告白を受けた途端に俺を捨てるつもりのくせに! 「ごめん急に変なこと言って……俺、帰るね」  早坂はサッと立ち上がり、俺に背を向け部屋を出て行った。
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