雨よ、私を染めて

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 誰も居ない家に辿り着く頃には、もう夜の九時を過ぎていた。  浴室に向かい、体を洗う。全身をナメクジが這ったような不快感を思い出し、何度も、何度も体を洗った。  浴室を出て、髪も乾かさずにベッドへと倒れ込んだ。  下腹部に感じる痛みが、放課後の出来事を思い出させる。  でも大丈夫だ。私の感情はとっくの昔に死んでいるから、悲しくなんてないし、辛くもない。大丈夫。  それでも、不意に涙がこぼれた。  ぽたり、ぽたりと流れ落ちたそれは、やがて、堰を切った様に溢れて止まらなくなってしまった。  胸の奥の、もっと奥にある何かが泣き叫んでいる。  胸が苦しい、呼吸もままならない。  気付けば私は枕に顔を埋めたまま泣きじゃくり、そのまま泥の様に眠っていた。  スマホのアラームで目が覚めた。  カーテンの隙間から差し込む光が、泣き腫らした目をチリチリと刺激する。  あぁ、そうか、やっぱり夢なんかじゃなかったんだ。  気怠い体を無理やり起こし、ベッドからゆっくりと立ち上がる。  顔を洗い、服を着替えて、台所から菓子パンを二つ取って家を出ようとした。ドアノブを握る手が震えて動かない。駄目だ、ちゃんと学校に行かなければ、しかし、どうしても腕に力が入らなかった。  結局、その日は学校へ行けなかった。  制服のままベッドに横たわっていると、嫌でも昨日の思い出したくもない記憶が脳裏に蘇る。  罵声、笑い声、私を床に押さえ付ける重み、痛み、汚い、汚い、汚い汚い汚い汚い――。  全身を覆う強烈な不快感に肌を搔きむしった。  消えない不快感に叫び、髪の毛を引きちぎる。  どうして私がこんな目に合わなくちゃいけないんだ。  ――そんなの誰も教えてくれない。  たくさん努力した。テストはいつも満点で、苦手な運動だって頑張った。  ――でも、誰も褒めてくれなかった。  せめて、普通に生きたかった。  ――そんな事すら、誰も許してくれなかった。
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