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九章 初めましての貴女へ
飛鳥と一泊二日の旅行は、触れるもの全てが新鮮で『生きている』という感覚を更新し続ける瞬間の連続だった。
「雫部屋に忘れ物とかしてないよね?」
「してても大丈夫だよ、またふたりで来ればいいじゃん?」
帰りは飛鳥からの提案で電車で帰る。いつも通学で利用している電車に何故遠回りをしてまで乗りたがるのだろう。
「ねぇ雫」
「ん?」
「昨日、話してくれてありがとう」
「話……?」
驚いている飛鳥が何に驚いているのか、私には全くわからない。入室してすぐ寝支度を済ませ、その後はすぐ一緒に寝たはず……。
「あ……そうだっけ?私勘違いしてたかも!ごめんね雫」
わかりやすく誤魔化す、飛鳥の優しい癖。私はきっと、また何かを忘れてる。
「まぁいいよ、ちょうど話したいことあったし」
「話……?」
「飛鳥」
「雫……?」
『私、貴女のことが好き』
誰かを好きになること、愛したいと思う感情を教わったことはないけれど、この感情に間違いはない。
「雫、それは……」
何が正解で、間違いか。飛鳥の話す『普通』が何か、私にはまだわからない。
「私はまだわからないことの方が多い。でも飛鳥は確かに可愛くて、全てを包み込んでくれて、私の隣に居てほしいってわかったんだ」
「雫……」
「この言葉は絶対に何があっても忘れない」
涙で濡れた目を覆い隠す飛鳥にかける言葉を探す。伝えたい言葉が溢れるばかり、涙を流す理由を知った。
「飛鳥」
「……ん?」
ふたりの呼吸だけが響く車内。忘れたくない、離したくない感情を吸い、取り込む。
もう一度貴女に出逢えてよかった。初めて愛を誓う人が貴女でよかった。
私の言葉には、嘘のない飛鳥の言葉が聴きたいな。
「私に『愛』を教えてくれてありがとう」
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