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2話 ゲームの情報を整理してみる
目覚めて早々ベッドで口汚く己の運命を吐き捨てた翌日、俺は普通に起き上がれるまでになっていた。いや、昨日の今日で起きれるってどんな体してんだよ。しかも毒で倒れた可能性……というかそれ以外にねえけど、そんな体が一日で動けるようになるか普通。少なくとも柊紅夏の体はこんな頑丈ではない。どんなに頑張っても一週間はかかると思う。……ひとまずそこは後で考えよう。
俺は安静のためベッドで食事をしている。まあ五日間絶食だったものだからパン粥が出ているんだけど……全然腹に溜まらない。
「はあ……」
思わずスプーンを置いてため息をつく。
「あれ? シュヴァリエ様お口にあいませんでしたか?」
「いや、そうじゃない」
「そうですか? あまり無理しないでくださいね」
「ああ」
俺の返答に笑顔を返してくれたサリクスはシュヴァリエ・アクナイトの専属侍従をしている。年はシュヴァリエのふたつ上だが非常に人懐っこく明るい性格でこのアクナイトでの唯一の味方だ。俺もサリクスのことは気に入っている。なんせ両親がアレだから。元々両親とは折り合いが悪かったシュヴァリエはサリクスを気に入っていたが、柊紅夏の記憶が蘇ってからは余計に好感度が上がっている。
……まあそれはともかく。ここがゲームの世界の可能性がある以上サリクスには色々聞いて情報を整理したほうが良さそうだ。ここがよく似た別世界って可能性もあるしな。……ただ現実逃避したいだけかもしれないが。
「なあ、ちょっといいか?」
「はい、どうしました?」
「起きたばっかりでちょっと記憶が混乱しているんだ。最近なにがあったのかと俺が倒れた理由が知りたいんだが」
「ああ、はい! わかりました」
一瞬目を瞬かせたものの、サリクスは嬉しそうに了承してくれた。こういうのを向日葵の笑顔って言うんだろうな。
「そうですね……最近あったことですと、サフィニア伯爵家のご令嬢とパフィオペディラム侯爵家の子息が婚約しましたね」
「サフィニア伯爵家とパフィオペディラム侯爵家……」
その名前ならゲームのモブで出てきていた気がするな。主に主人公の協力者的な立ち位置で、会話する場面がいくつかあったはずだ。
「他には? 例えば宰相の息子とか青光騎士団長の次男とかは?」
「クレマチス宰相閣下とカンパニュラ伯爵様ですか?」
「そうだ」
「うーん……最近ですと宰相様はアウィス王国へ親善大使として行かれましたし、カンパニュラ騎士団長は西の森の魔物討伐から先日戻ってこられましたね。お二方の子息に関しては特に」
宰相がアウィス王国に行って青光騎士団長が魔物の討伐から帰還……ね。この辺りも日常会話でさらっと出てきた覚えがあるな。
「……サリクス。食器を下げたら席を外せ。ノートとペンの用意を頼む」
「はい、シュヴァリエ様」
俺は平らげた食器をサリクスに渡すとすぐさまノートとペンが俺の前に現れた。
「それではごゆっくりお休みください」
「ああ」
「お薬はしっかり飲んでくださいね」
「言われなくてもわかっている。さっさと行け」
『いつもの』きつい口調で言うとサリクスは気にした様子もなく、一礼して部屋を出て行った。
「は~~~」
さてと、ひとまずゲームの内容を一通り書き出してみよう。
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【タイトル:手折れぬ花の守護者】
○あらすじ
スティルペース学園へ編入してきた平民の主人公クラルテは生き別れの兄を探していた。クラルテが得ている情報は兄が貴族だということだけ。将来のために学園に通いながら兄の情報を集める中でクラルテの周りで不審な事件が連発する。何かと巻き込まれてしまうクラルテを心配した攻略対象たちと共に事件解決のため奔走しているうちに恋愛関係へと発展していく。
○舞台
ツヴィトーク王国にあるスティルペース王立学園
○エンド
純愛エンド:攻略対象と純粋な恋愛関係になる。
欲愛エンド:攻略対象と濃密な恋愛関係になる。(エロ描写あり)
友愛エンド:攻略対象と紐帯な友人関係になる。
友情エンド:主人公が全ての攻略対象と友人関係になる。
○魔法属性
火、水、土、風、雷、無
○攻略対象
その1:エヴェイユ・イル・ツヴィトーク
・ツヴィトーク王国第二王子、第六学年で生徒会長
・プラチナブロンドの髪に鮮やかな青い目
・温和×腹黒
・物事への興味が薄く退屈気味で自分の退屈を埋めてくれるものを求めている。
・水属性
その2:リベルタ・イル・ツヴィトーク
・ツヴィトーク王国第四王子、第三学年
・プラチナブロンドの髪に薄い紫の目
・無垢×快活
・好奇心が旺盛な自由人で魔法の研究にハマり、よく兄二人に怒られている。
・火、風属性
その3:リヒト・クレマチス
・宰相の息子、第四学年
・薄い水色の髪に濃い碧の目
・真面目×毒舌
・エヴェイユの幼馴染兼相談役で側近候補。
その4:クオーレ・カンパニュラ
・青光騎士団長の息子、第五学年
・濃紺の髪に赤い目
・寡黙×激情
・エヴェイユの幼馴染兼護衛役で、リヒトと同じく側近候補。
その5:アウル・オルニス
・アウィス王国からの留学生、第四学年
・漆黒の髪に金色の目
・クール×常識人
・隣国アウィス王国の留学生で主人公と一番初めに仲良くなる。
・火、水、土、風、雷属性
隠れキャラ:情報不明(未攻略)
○クラルテについて
・平民の学生、第四学年
・鮮やかな紫の髪にパールホワイトの目
・純粋×お人好し
・平民の学生でゲームの主人公。生き別れとなった兄を探している。
・全属性
○シュヴァリエ・アクナイトについて
・黒光騎士団長の次男、第四学年
・純白の髪に銀色の目
・傲慢×冷酷
・小説の悪役令息でクラルテを毛嫌いしている。
・無属性
○シュヴァリエの末路
エヴェイユ、リベルタ、アウルルート
・純愛エンド:処刑
・欲愛エンド:性奴隷
・友愛エンド:国外追放
クオーレ、リヒトルート
・純愛エンド:国外追放
・欲愛エンド:平民落ち
・友愛エンド:学園の自主退学→消息不明
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……ざっくりこんな感じか。
シュヴァリエの末路が酷すぎるな。特にエヴェイユ、リベルタ、アウルルートの末路は悲惨だ。全部碌でもねえじゃん。処刑と国外追放はまだわかるが性奴隷ってなんだよ。運営さん、もう少し慈悲があってもよかったんじゃないの。あと地味に怖いのがクオーレとリヒトの友愛エンドの末路だ。一番まともかと思ったらまさかの消息不明なんだよ。全くもっていらない要素がくっついてきているのはなんなんだ。
……まあゲーム内でシュヴァリエのしたことを考えたら当然の処置っちゃ処置なんだけど、シュヴァリエがなぜあんなことをやったのかはなんとなく想像つくんだよな。
だって両親がアレだから!
シュヴァリエ・アクナイトはいわゆる愛人の子という生い立ちだ。アクナイト公爵がどこかの貴族の家に招待された際、接待係の女をあてがわれて渋々抱いたらその女が妊娠したというありきたりな事情で生まれたのがシュヴァリエである。
彼らからすればいい迷惑だっただろうことは想像つくが、冷遇する理由にはなり得ないだろ馬鹿夫婦。
幼い頃から望まない子供という理由で虐げ冷遇されてきたシュヴァリエの心は冷え切り、他人にどれほどのことをやっても一切何も感じない人物へと成長してしまった。というか記憶が戻るまでは本当にゲーム通りの性格だったからなぁ。
…………………………………………よし、決めた。
ゲームの内容は無視しよう。小説とかでよくある強制力とかいうやつも全部無視だ。だってせっかくこの国で五つしかない公爵家の人間に生まれたんだぞ? しかも俺は出来損ないと言われている次男。そんな奴に爵位は継がせないだろ。だったらいっそやりたいことやっていいんじゃね?
それに何より、公爵家は金持ちだ大金持ちだ。精々存分に利用してやるよ。
となると俺にとってやるべきことはひとつ。ズバリ、前世からの趣味・押し花作りを極めるべし! よっしゃ~~~燃えてきた! これまでのシュヴァリエよさようなら。これからのシュヴァリエは押し花のために生きていく!
「待ってろよ、未来の俺のコレクション達っ!!!」
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