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 意表をつかれ、前触れなく床板を踏み抜いたみたいな声が出た。 「早江草さんて呼びづらいんだ。『さ』の音が三つも入ってるだろ。意識して噛みそう」  そう言えば小学生の頃、そんなことでからかわれた気もする。 「好きに呼べば」  素っ気ない言い方になったのに、園田は笑顔になった。 「じゃあ、真帆。真帆ははどれがいいと思う?」  園田の声はやわらかい。耳がくすぐられ力が抜けそうで、心臓が急に早く打ちはじめた。距離感がめまいを起こしたみたいにわからなくなった。どれがいいって? 返事ができない。花に視線を移していた園田が振り返った。 「嫌だった?」 「……真帆でいいよ」  疲れる。早く帰ってもらいたい。  とはいえ適当な仕事をするつもりはないので、真帆は気を取り直して園田の、つまり男の部屋に置かれている瑛久の一輪挿しを想像した。ざっと見渡し、青が強めの紫のアネモネに手を伸ばし、やめた。これはだめだ。きっと園田はまたあの質問をする。  正直言って花言葉をすべて覚えているわけではない。今日は園田を誘ってしまった手前、昼の間にさらっておいたのだ。いい意味ばかりではない。園田のプライベートを垣間見たあとでは言いづらいものもあった。  白いフランネルフラワーならシンプルだし無難か。 「紫のでもいいんじゃないか」  園田がいまさら口を出す。 「合いそうだけど」 「俺はこっちがいいと思う」
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