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 気晴らしに来たはずなのに、風は落ち気味の気分を吹き飛ばしてはくれず、げんなりした。俺っていつからこんなに暗いやつになったのかな。あ、元々暗いのか。  誰にも見せていないだけだ。明るくてバランスが良くて、なんでもそつなくこなせる。子供ころからそう言われていて、そう振る舞ってきた。  しばらく土手を歩いてから、普段は通らない住宅街を抜けて駅前へ出た。ここからはいつもの道だ。  よく立ち寄るパン屋とラーメン屋の前を過ぎ、昔ながらの金物屋を横目で見た。店頭に所狭しと日用品が積まれている。園田はまだ足を踏み入れたことがない。  さらに歩くとこぢんまりとした花屋があった。中学のころ、ここへ母の日にカーネーションを買いに来た。数年前に洒落た雰囲気に改装されてから、店に入ったことはなかった。  入り口の脇で、名前のわからない背の高い観葉植物が誘うように葉を揺らした。これがうちにいたらいいだろうな、と思う。いや、狭い部屋じゃ邪魔になるか。縄のようにねじれる幹の上に舟形の葉が繁っている。一枚を指で持ち上げて揺らした。観葉植物の名札を覗いていく。パキラ。横にあるのがオリーブ。ベンジャミン。これは知ってる、ポトス。足元には花壇に植えられていそうな、ポットに入った花。カモミール、アネモネ、カレンジュラ、え、クリスマスローズ? 春だけど?
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