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開放された扉の内ではさらに多くの花や植物たちが園田を迎えた。壁面からフロアに向かって木の枝がみずみずしく広がってる。その下に色とりどりの花たちが並んでいた。迎えられるなんて錯覚だろうと思うのに、ほんの少し心が浮き立った。
チューリップ、スイセン、スイトピー、ミモザ。花の顔と名前を見比べながらゆっくりと奥へ進んでいくと、いらっしゃいませと愛想のない声がした。驚いて奥を見る。若い男の店員がこちらへ顔を向けていた。すぐに手元に戻したのでほっとする。無人の森にでも迷い込んだ気分でいた。こんなとき一瞬不審者になった気がするのはなぜだろう。
色とりどりに並ぶ花は個性豊かだ。主張するようにこちらを向くのもあれば、そっぽを向いていたり、ひっそりと佇んでいる花もある。こんなに種類ってあったんだな。つらつらと見るうちに、黄色い小さな花を連ねる一輪に目がとまった。
「すみません」
奥にいた男がふいと顔を上げこちらへ来た。隣に立つと目線が園田と同じぐらい、いや、ちょっと低いか。とにかく長身だ。
「これ、ください」
名前が隠れて見えないので指差した。
「フリージアね。どれにします?」
「これがいいかな」
園田は何本かあるうちの一輪を適当に指した。腕が伸び、慣れた手つきで花を抜き取る。まくり上げた袖から伸びる腕にはほどよく筋肉がついていた。考えたこともなかったが、力仕事もあるのだろう。水の入ったバケツを持ったり、店頭にあるような大型の鉢を運んだり。
ぼんやりそんなことを思っていると声がかかった。
「他には?」
「それ一本で」
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