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 彼はうなずき、レジへ向かう。 「彼女にプレゼント?」  こちらの顔も見ず尋ねた言い方が無遠慮で、めずらしくほんの少し苛ついた。こっちは絶賛失恋継続中だよ、男に。 「独り身用」  たてついても仕方がないので普通に答えたが、自宅用と言えばすむのについ余計な情報までつけてしまった。恋愛方面は充実しているとよく誤解されるし、普段は気にも留めないのに、知らない相手だからこそなのか、妙に刺のある気分になった。切れ長の目がふっとこちらを見て、また手元に視線を戻す。 「独り身なんだ」 「そう」 「いいんじゃない」  別に許可は求めてないと思ったが黙っていた。 「観葉植物もあるよ。あれとか」  視線の先に手のひらサイズの鉢がある。もみじみたいな形の葉がついた蔓を伸ばしていた。自宅の棚に置けば映えるだろう。一瞬でイメージが湧き、案外いいかも、と心が動く。 「いや、それでいいよ」  園田は植物なんて育てたことがないので枯らしてしまうかもしれない。切り花ならあらかじめ有限だとわかっているからいい。 「長さは?」 「え?」 「家の花瓶。合わせて切るよ」 「ああ、そうか」  そう言われてようやく基本的なことに気がついた。花瓶など持っていない。 「だったら、これは?」  店員は近くの棚に並ぶうちから、一番シンプルな一輪挿しに手を伸ばした。 「あ、その右のがいいな」  水滴を細く縦に引き伸ばして上を切ったみたいな形の、一輪挿し。表面は青みが入った黒が艶やかな色をしていた。 「とりあえず買うには勧めないけど」 「いいよ、それにする」 「あ、そう」
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