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仰向けになった園田の横顔は鼻筋がきれいに通って、その稜線が厚くも薄くもないほどよい唇の膨らみにつながっていた。
触りたい。
すぐに触れられる。ただしそんなことをすれば、きっとまるい綿毛みたいに壊れてどこかへ飛んで行ってしまう。
「真帆」
突然柔らかい低い声に呼ばれて、心臓が打ちはじめた。
「寝たんじゃないのかよ」
冷静に返そうとしたが、予想よりも不満げになった。
「まだ話したい」
園田は目を閉じてしぶとく口だけを動かしている。
「ほとんど寝てるじゃねえか」
「真帆にはわがまま言いたくなるんだ」
心臓に悪い上に腹立たしい。ガムテープで塞ぐべきか検討したくなった。
「普段いい子すぎるんじゃないか」
投げやりに答える。園田の頬から笑みが消えた。
「そうかもな」
「……今日だけだぞ」
「それって何度も聞いてくれるやつ?」
「いいから話せよ」
根気強く返事をしながら、ガムテープのありかを脳内で確認した。うーん、そうだな、と園田はもごもごしている。話題なかったのかよ。なぜそこまでして話したいのか、真帆には一向に理解できない。
「あ。真帆って名前、誰がつけたの」
「親父。決めたのは、姉」
名前の由来を聞かれることはこれまでに何度もあった。すでに定型になったエピソードを、記憶の棚の容易な場所から取り出す。
「お腹にいるときに女だと思われてた。父親がすぐ名前決めて、みんな真帆真帆って呼んでたんだ。生まれてみたら男で、じゃあ決め直さなきゃってときに四つ上の姉が言ったんだってさ。だめ、この子は真帆ちゃんだよ、って」
「かわいいな。それで決まったんだ」
「小さい頃はよく女の子と間違えられてた」
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