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容姿のせいもあり、小学校低学年はよく揶揄われた。しかし背丈がぐいぐい伸び、同級生を見下ろすようになると、いつの間にかそんなこともなくなった。
「……ああ、名刺出したら怒り出した人もいたな。他人からもらったのだろうって。それからは出すときにフルネーム名乗るようになったんだけど」
「俺のときは言わなかった。なんで」
「……もう忘れた」
そのつもりはなかったが、多少動転していたのかもしれない。急に園田に会ったから。
隣の様子をうかがう。園田の唇は笑みの形に綺麗なカーブを作っていた。
ふいに園田が寝返りを打った。向かい合った顔はより近くなり、開いた目が真帆を見ている。一体なんだと息をつめる真帆に向かって、布団の中から園田の腕が伸びた。顔の上を飛行機が作る影のように横切る。真帆の焦りをよそに、それは耳の上あたりに着地した。
脈が騒がしく走っていた。友人としての好意なのはわかりきっている。しかしこの手をどうすればいい。硬直しているうちにまばたきが園田の瞼の上下があやしくなった。眠りの境界線をあっけなく跨ぎ、脱力して指が真帆の頬を伝う。
気が抜けた。
頬の上で止まった指をそっと握る。
まじふざけんな。お前のおかげでこっちは疲労困憊だ。脳内で悪態をつく割には、園田がちゃんと眠りにつけたことに安堵もしている。
園田はもう深い寝息を繰り返している。呑気だ。そうさせたかったのだが。
真帆は身体を起こし、無防備に眠る園田の横顔を見下ろした。朝が来るまでこの長い睫毛は動かない。多分。きっと。
唇の端にそっとくちづけた。
握っていた手を離し、ずれ落ちた布団を園田の肩に掛け直す。
背を向け、自分も深く潜り込んだ。
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