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6
朝起きて、見覚えのない天井があれば夏休みの祖父母の家だった、というのが園田の思い出である。大人になってからはそれが付き合い始めたばかりの恋人の家だったり、あるいはその日限りの相手と過ごしたホテルだったり、ということもなかったわけではない。
仰向けの視界に収まる風景から、今に至る顛末を一気に思い出し、ああ、と布団に絡まって嘆息した。遮光カーテンの隙間から差す光の感じからして、もう朝ではない。誰の姿もなく、真帆のいた気配だけが残っていた。当然仕事へ行ったのだろう。ずいぶん遅くまで付き合わせた。のみならず床で寝させてしまった。ラグが敷いてあるとはいえ寝心地がいいとはとても言えない。今日はきついに違いない。
昨夜駅に着いたときに園田は自分への怒りで満杯になっていた。声をかけたのが真帆でなければ、構わず殴りかかりそうな気分だった。隣に座った真帆の体温は温かく、怒りはほろほろと崩れていった。それからは気が緩んで恥ずかしいくらい甘えてしまった。おかげで悶々と夜を明かすこともなかった。
園田は真帆を気に入っていたが、向こうには線を引かれていると思っていた。存外情に厚いやつなのかもしれない。
よく眠った。
この部屋の天井は真っ白だ。
失恋したんだ。
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