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園田は帰り着いてすぐに洗濯と掃除をし、ベッドに倒れ込んだ。目を閉じ、開けたときには午後三時を過ぎていた。よく眠りすぎた罪悪感が湧き、真帆の様子が気になったが、わざわざ調子を訊くのもわずらわしいかと、こっそり心配するにとどめた。徒歩三分の場所に隣接するスーパーとドラッグストアで食材や日用品の買い物をすませ、細々とした雑事をこなすうち土曜日は終わった。
翌日は特にすることもなく、部屋で映画を二本立て続けに見た。
すっかり引きこもってしまった。窓を全開にして新鮮な空気を部屋に通す。あー、とため息ともつかない声が漏れた。なにもない休日。本当になにもない。腑抜けたように空を見ていた。
園田は立ち上がり、玄関の明かりをつけた。シューボックスから通勤用の革靴と道具を取り出す。
週に一度磨く習慣は祖父の教えだ。祖父にはそこまで重みを持たせたつもりはなかっただろうが、革靴など縁のない幼児の園田に「尋輝。大人になったら靴だけはちゃんと磨けよ」とやけに神妙な表情で言われたことが頭に残っていた。なぜそのタイミングだったかは今もってわからない。いつか聞いてみようと思うが、祖父に会うときには忘れてしまうのだった。磨き方はネットで調べた程度でほとんど自己流だ。
靴紐を外し、柔らかいブラシでつま先へ向かって埃を落としていく。いつの間にかブラシを動かすリズムが身について、今では何も考えなくても手が勝手に仕事をしてくれるようになった。
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