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上司と部下だったから、関係がなくなっても顔を合わせなければならないのは覚悟していたが、彼は戸惑うほど冷淡になった。そこまでの心当たりはなく、幾夜ひとりベッドで寝返りを打っても、答えらしきものに行き着けなかった。拒絶は無数の細かな傷になり、同じ場所にいる限り癒えると思えなかった。
酸素不足の金魚みたいな四か月を過ごし、なんでこんなに頑張ってるんだろう俺、と自問した瞬間にふつりと糸が切れてしまった。新しい場所で、しばらく恋など忘れて過ごすつもりだった。
つるりとした光沢のある一輪挿しは、部屋に置いてみると結構映えた。たしかについでで、最初で、園田のような客なら、あのデザインと価格帯は勧めないかもしれない。彼は愛想はないがちゃんと仕事をしていた。
こちらを向く黄色い花は一輪でも充分華やかだった。ひとりでいるうちに無機質に感じていた部屋がそこからカラーになっていくようだ。生き物がいるってこういう感じか。
新しい職場で、園田のちょうど背中合わせのデスクに座る男はきれいな顔をしていた。あまり表情を変えないけれど、たまにふっと笑う顔が可愛い。ほどなくして同居人がいると知った。同居じゃなくて同棲だろう、というのは勘だ。彼の持ち物や些細な仕草を見るだけで、相手から注がれている愛情がわかりたくないのに匂った。
彼の邪魔にならない程度に手を貸したくて、こっそり手を空けられるように努力した。園田より一年近く先にこの職場へ来ているのに馴染むのが不得手な彼をなんとかしたくて、進んで周囲と親しくなった。罪悪感がひたりと首筋を睨める。
今ごろ彼は、きっと恋人との週末を楽しんでいるだろう。
花を買うなんて、恋するやつがすることだ。恋なんて忘れていたかった。この苦しさから逃れたい。
なんだ、やっぱり逃げたかったのか。
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