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薄暗い場所で呼び出し音を聞いていると、永遠につながらないんじゃないかと思う。相手は限定で。
玄関の明かりだけに照らされる中、スマホを片手に店で売れ残った花を洗面台の桶に置き、水をためる。すぐにいっぱいになり蛇口を閉めた。
今日は出ないかもしれない。出てほしい。やっぱり出ないでほしい。
ふいに呼び出し音がぷつりと途切れ、わずかに無音の間があった。
「もしもし。真帆?」
明るい男の声が聞こえた。少し眠そうだ。真帆はうわずりそうな声を低めて答えた。
「ああ、俺」
「仕事終わったのか?」
「終わった」
プライベートで真帆から瑛久へ文字で連絡することはほとんどない。送信した直後の期待と、返信を待つ時間がいやだったし、不安になる自分自身も嫌いだからだ。業務連絡ならこんなことはない。気にしなくても返事は来るから。
「そっちはどう」
「変わらないよ。土練ったり成形したり焼いたり掃除したり営業したり」
「あれ、売れた」
瑛久の言葉が終わらないうちに割って入った。
「おお。やった」
「だからまた送って」
「注文なら明日でもいいのに」
声が聞きたかったんだよ、という言葉を飲み込んで、ああと気のない返事をした。
「改めて発注かけるよ。……疲れてんの?」
「え?」
「眠そうだから」
はは、という笑い声が耳をくすぐる。そんなに他人に見せないゆるさで笑うなよ、と思うけれど、そうでなければ寂しい。
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