2

1/4
前へ
/130ページ
次へ

2

 薄暗い場所で呼び出し音を聞いていると、永遠につながらないんじゃないかと思う。相手は限定で。  玄関の明かりだけに照らされる中、スマホを片手に店で売れ残った花を洗面台の桶に置き、水をためる。すぐにいっぱいになり蛇口を閉めた。  今日は出ないかもしれない。出てほしい。やっぱり出ないでほしい。  ふいに呼び出し音がぷつりと途切れ、わずかに無音の間があった。 「もしもし。真帆(まほ)?」  明るい男の声が聞こえた。少し眠そうだ。真帆はうわずりそうな声を低めて答えた。 「ああ、俺」 「仕事終わったのか?」 「終わった」  プライベートで真帆から瑛久(あきひさ)へ文字で連絡することはほとんどない。送信した直後の期待と、返信を待つ時間がいやだったし、不安になる自分自身も嫌いだからだ。業務連絡ならこんなことはない。気にしなくても返事は来るから。 「そっちはどう」 「変わらないよ。土練ったり成形したり焼いたり掃除したり営業したり」 「あれ、売れた」  瑛久の言葉が終わらないうちに割って入った。 「おお。やった」 「だからまた送って」 「注文なら明日でもいいのに」  声が聞きたかったんだよ、という言葉を飲み込んで、ああと気のない返事をした。 「改めて発注かけるよ。……疲れてんの?」 「え?」 「眠そうだから」  はは、という笑い声が耳をくすぐる。そんなに他人に見せないゆるさで笑うなよ、と思うけれど、そうでなければ寂しい。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

193人が本棚に入れています
本棚に追加