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「子供陶芸体験、手伝ったんだ。人数多くてさ、疲れた。楽しかったんだけどさ」
「そうか。明日も早いんだろ」
「うん」
「それだけだから。おやすみ」
「えー?」
弾かれたような笑い声がした。真帆にはその顔が見える。イメージにのぼったのは八年前の彼だった。年始だって会っているのに、真帆が思い出すのは出会ったころの瑛久だ。
「それだけ?」
「それだけ」
憮然として真帆が答えた。つまらない用事なのはわかっているから、声が聞ければそれ以上瑛久を煩わせたくない。
「すぐ報告してくれるのは嬉しいよ。買ったのどんな人だった?」
瑛久から話題を振ってくれたので真帆はほっとした。リサーチだけでなく純粋な興味も入っている。
「今日は男。二十代後半。俺たちと同じぐらいかな。多分サラリーマン」
「へえ、意外。もう一つは?」
「女性。二十代から三十代前半だと思う」
「ふーん。……真帆もたまにはこっちに遊びに来れば」
唐突に話題を変えられ、視線が宙を泳いだ。
「日帰りじゃしんどい」
車で片道二時間ほどの距離だ。本当はそれほど大変ではない。
「忙しいもんな……明日も早いんだろ」
「市場行かないから遅め。でも今日早かったから飯食って寝るよ」
「そっか。……じゃあ、注文よろしくな。体壊すなよ」
「そっちもな」
「おやすみ」
「おやすみ」
二秒、カウントが進むのを見て、通話が終わった。
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