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 犬から走って逃げると追いかけてくる確率、九割。  え、俺、そんな感じ?  土手から見下ろせる河川敷のドッグランを茶色の大型犬が駆け回っている。どこかで聞いた情報と現状を無駄に結びつけてしまった。しかも足を止めるほど図星。いやいや、単なる思いつき。思考が行きつ戻りつして落とし所が見つからず、風を受けてまた歩きはじめた。  園田は犬が好きだし、むしろこっちから走っていってわさわさしたいぐらいだが、やっぱりあのとき逃げたと思っていたのだろうか。  三月、川べりに広がる空は淡い水色と茜に澄み、蛇行する上流のはるか先、稜線の向こうに日が落ちていく。真上には糸のように細い月がひっそりと浮かんでいた。  一級河川に沿うコースには散歩やランニングする人が行き交って、まだにぎやかだった。  年末で前の会社を辞め、一月をだらだらと過ごし、二月に今の職場へ来た。慣れた流れから急流に迷い込んでしまった魚みたいに懸命に泳いで、そうとは見せないようにしてきた。多分おおむねうまくやっている。  あのまま前の会社に残っていたら、と考える。きっとかすかすに干からびていた。ようやく水を得られる環境に移ったというのに、まったく歓迎できない新たな恋が待っているとは思わなかった。  好きになったら即失恋、なんて園田にとってはありふれたことだ。好意を自覚した直後に恋人がいるとわかったり、性的指向の相違でどうにもならなかったり。けれどすぐにまたこんな状況になるなんて望んでいなかった。
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