警官二人

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円華は部外者が侵入したのかと焦った。しかし源郎は警戒するどころか、青年を一瞥すると、身を引くように部屋から一歩離れる。そこで円華は、リーラが玄関の鍵を開けておけと言った理由を理解した。  青年は部屋を覗くと、少女のように丸い目を、懐っこそうに孤にする。 「リーラ、来たよ!」 「レイ君、待っていたよ。今回、キミにしてほしいお仕事は、二つある」 「頭二回撫でてくれる?」 「もちろん」 「じゃあいいよ!」  (れい)は納得したのか、嬉しそうな笑顔で頷いた。さっそく部屋に入ろうとすると、リーラは手の平を見せて止める。 「お仕事一つ目は、部屋を綺麗にしてほしいんだ。ほら、このままでは、木の破片で怪我をしてしまうだろう?」  たしか、リーラは部屋の調査は部屋が片付いてからだと言った。源郎がそれに反対しなかったから円華もなんとも思わなかったが、よく考えたらおかしい。どうして青年を待つ必要があったのだろうか。とてもじゃないが、破片は一人で集めるのは億劫な量だ。少し可哀想に思うほど。  しかし麗は、それに嫌と言わない。それどころか彼は元気に頷くと、淡い茶色の目を半分まで閉じる。すると、風を無しに肩までの黒髪が泳いだ。 「えっ」  円華は目の前の光景に、思わず声を漏らした。源郎に視線を向けられ、とっさに口を両手で押さえる。  驚いたのも無理はない。そこら中に散らばっていた木片が、宙に浮いたのだ。そしてそれらは、パッとどこかへ姿を消した。 「どう?」 「ありがとう。完璧だ」  麗はパタパタと部屋に入り、リーラに頭を撫でられて満足気だった。  源郎は確かめるように、一度だけ左右を見て部屋に踏み込んだ。唖然としていた円華は、ハッと我に返って遅れて入る。 「あいつを見るのは初めてか」 「は、はい」  円華は、この課に就いてまだ間もない。出会った事のあるテンシ狩りは、片手で数えられる程度だ。  しかしリーラが気さくに話しかけるのを見れば、麗も狩人であるのは安易に理解できる。人の予想できない力を持つ彼女の部下とすると、魔法使いとかだろうか。 「超能力者だと」 「え、えぇ! 本当に?!」  背後からの黄色い悲鳴に、麗はビクッと体を跳ねさせた。振り返ると、合わさった円華の目はキラキラと輝いている。瞳を瞬かせて首をかしげると、彼女は興奮気味に手を握ってきた。 「超能力って、物を動かしたり透視したりするやつですよね、すごいすごい!」 「僕すごい?」 「はい、とってもすごいです!」 「えへへ、やった」  彼女のテンションの上がりように、リーラはカラカラ笑い、源郎はうんざりと言うようにため息を吐く。  円華は、簡単に言えばオカルトマニアだ。不謹慎だが、事件が不気味であればあるほど興奮を覚える。だからこそ解決に懸命になるから、頼りにはなる。この職はきっと、彼女にとって天職だろう。 「ねえねえ、二つ目のお仕事は?」 「ああ、これがどこから来たか、視てほしいんだ」  差し出した黒い手袋の上には、まるで骨のように真っ白な指の欠けらが一つ。天使の人形の指だ。  人形の意識が覚えていないのなら、体に聞けばいい。麗は、物の持ち主を割り当てる事もできる。全ての元凶でなくとも、竜真の居場所くらいは掴めるだろう。  麗は指を受け取ると迷わず口へ放り、そのままゴクンと飲み込んだ。閉じた目を開くと、まるでどこか遠くを見るように視線を転がす。 「…………隠した骨組み、人数は十五人程度、場所は、オウメ市タキガワ」  まさか証拠とも呼べる物を食べると思っていなかったせいで、円華は呆気に取られていたが、すぐにメモ帳を取り出す。麗の口から漏れる単語は、先程の幼さとは無縁なほど機械のようだ。  視えた全てを吐き終えたのか、彼は深く息をつく。その表情には、先程の片付け後よりも明らかな疲労の色が見える。 「レイ君、口をあーってしてごらん」 「? あー」  言われた通り大きく口を開ける。リーラはレッグポーチをゴソゴソと漁ると、何かを彼の口へ入れた。舌の上でコロンと転がったのは、飴玉。麗は可愛らしい目をさらに丸くさせた。 「ご褒美だ。ありがとう、助かったよ」 「んふふ、どーいたひまひて」  あどけない笑顔の中に、もう疲労は見えない。リーラは安心したように微笑み、麗が抱きしめる人形の鼻を、何故かツンと突いた。
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