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そう、天は天使。正しくは、元天使だ。訳あって自らの翼を切り落とし、人間界へと堕ちた。それを知っているのは、リーラと優牙。そして本人と面識のある一部のテンシ狩りのみ。
天の見た目は、元天使であった事から整った容姿をしている。しかしそれを含めて見ても、人間にしか見えない。正体を見破ったという事は、彼の以前を知る者が居るか、眼のいい人間かだ。
「先週行こうとしたら、施設はもぬけの殻。私には全く連絡無し。普通バイトには報せるはずでしょ?」
天はせっかく遠出したのにと、気怠そうに溜息を吐いた。
喫茶店で入手した情報は、全て天が体験して判断する。つまり、彼も治験に調査という形で参加したのだ。もちろん出された薬はその場で飲んだふりをする。飲み込んだかどうか、口の中を見られたと言うのだから、ずいぶんな念入りようだ。薬は喉まで通し、その後無事吐き出したそうだ。
「ま、人間の薬なんて効かないけどねぇ」
「キミね、堕天したんだからもっと人間らしくしたまえよ」
「お前に言われたくない。で、なんか患者一人一人に、お偉いさんみたいな人が挨拶に回ってきたんだけどさ」
「感慨しいね」
「甲斐甲斐しいじゃないか?」
「それだ」
治験に参加して二回目の時だ。とても可愛らしい少女を連れて、人の良さそうな笑顔をした男がベッドの前に来た。院長だと名乗られ、体調や治験の経験、他にはギリギリプライベートには引っかからないような世間話をした。
喋るのは院長のみで、少女は結んだ口を縫われたように開かない。ただじっと、観察するように天を見つめていた。
「その少女が天使だったと?」
「んんー……それなんだけど、女の子からは人間の香りしかしなかった。でも関係者ではあるよ、きっと」
きっかけはなんであれ、天の正体を知って、場所を移したのだ。それほど他者には気付かれたくない事をしているのだろう。場所は現在、情報を聞き回って探している最中だと言う。その少女がたとえどんな存在であれ、関係者をのさばらせるわけにはいかない。
「ふむ、内容は分かった。教えてくれて感謝するよ」
「まだ確信できない状況ですまない」
「気にするな。ここから先は、ワタシも協力しよう」
相手がどこへ行こうと、逃げ場は無い。なにせテンシ狩りたちは、全国各地に散らばっている。それが全てがリーラにとっては自分の目、同然なのだから。
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