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ざあざあ、雨が降っている。
いつもの帰り道、2人並んで歩く。
「だめだったねぇ。」
相棒が言った。
「ねぇ。」
と、返した。
「これでもう引退なのにねぇ。」
相棒が、くるりと2人お揃いの晴れ空模様の傘を回して言った。
「そうだねぇ。」
私も、お揃いの傘をくるりと回して返した。
それからしばらく、黙って歩く。
今日の部活終わりに、コンクールに送り出した絵の評価が帰ってきた。
私も、相棒もだめだった。
最後のコンクールだった。部活はもう、これで終わり。
正直、お互い今回の作品には自信があった。
授業が終わったら、すぐに部室へ行って描いた。
学校に残れるギリギリの時間までねばって描いた。
土日も、朝早くから部室にきて、またギリギリまでねばって描いた。
締め切り当日の朝も、早くに学校へ来てギリギリまでねばった。
絵を描くのに、明確な「終わり」は無いと思う。もちろん、締め切りはあるけれど、「終わり」を決めるのは描き手だ。ほんとのほんとに、最後の最後まで絵を描いていた。気になる所なんて、後から後から見つかる。
ここの影が。
もしかしたら、背景にこの色はダメだったかも。
ここ、明るすぎる?
逆にここは暗すぎる?
いや、ここが。
うわ、ここは。
なんか、ここ気に入らない。
見つけて、直してを繰り返して、なんとか仕上げた作品だったけれど、私も相棒もだめだった。
「最後くらい、なにか賞、取りたかったぁ。」
相棒が言いながら、少し先を歩き出した。
「ねぇ。取りたかった。」
と、少し後ろを歩きながら返した。
結局、2人とも何かしらの賞を取った作品は、この3年間なかった。
審査員達にとって、その絵にどれだけの時間がかけられたのかなんて関係ない。
描き手の込めた思いなんてのは何一つ伝わらないかもしれないし、違うように受け取られるかもしれないし、何も感じ取らないかもしれないし。
描き手がなんにも込めなくても、何か感じるかもしれないし。
こだわったところが、評価されなかったり、適当になったところが、評価されたり。
「……あの子、賞取ってたねぇ。」
相棒が、少し先でふと立ち止まって言った。
「…そうだねぇ。」
と、少し後ろで立ち止まって返した。
あの子は、1つ下の後輩だ。
部活の時間、あの子とその他2人の後輩部員達の会話を思い出す。
それでさぁ、そいつ、おろおろしてなんにも言いやしないから、喋れもしねぇのかこのグズ死ねば?てちょっと言っただけなのに、なぁんか、次の日から学校来なくなっちゃってさぁ。
それだけで?わたしも、前にさぁ……
あの子達は、そんな話をしながら笑いあっていた。
私も相棒も、他の部員たちもドン引きである。
日陰を好む、度胸のない、弱々しい私と相棒は、部長で副部長だったけど、何も言えなかった。できなかった。
代わりに、あの子たちを帰らせたのは顧問だった。
そんなあの子の絵は、入賞した。
私と相棒には、なんにもなかった。
顔をあげると、少し前に私のとおんなじ、晴れ模様の傘を持った相棒がいる。
ざあざあ降る雨の中、青空色に、真っ白い雲の浮かんだ、晴れた空模様が2つ。
お揃いで買った時、お店のお兄さんはなんて言ってたっけ。
「……悔しいねぇ。なんか。」
相棒が、ぽつりとこちらを見ずに言った。
「…ずるいねぇ。」
と、相棒の後ろ姿を見つめて返した。
2人、そのまま突っ立って黙る。
2人の傘を、雨がざあざあ打ちつける。
だけど、そうだ。
私と相棒は、それでも晴れ模様の下にいるのだ。
だから、
「でもさ。」
と、私は言った。
相棒がこちらを振り返って私を見た。
だから、私は笑って言った。
「楽しかったぜ。相棒。」
そうしたら、相棒も笑って言った。
「そうだね。楽しかったぜ。相棒。」
「だからまあ、良しとしよう。」
「そうしよう。」
晴れ模様の傘を2つ並べて歩く。
ざあざあ雨は降るけれど、私たちは晴れた空の下にいる。
雨よ、もっと降ってみな。
どんなに激しくたって私たちには、目じゃない。
晴れ模様の下にいる私たちは、最強なんだから。
2人なら、きっと無敵だ。
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