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「今、シミ取りクリームの話をしてませんでした?」
「うん。してたよ」
「今、詐欺広告とか言ってませんでした?」
「うん。言った。だって、あんなの詐欺以外の何ものでもないじゃん。擦って取れたならそれは汚れ。表皮の汚れ」
「……私、使ってます」
「はっ?」
「その塗って綿棒で擦るクリーム、ネットで買って使ってます。だって、そんな簡単にシミが取れたら万々歳だと思って」
体裁が悪そうな顔をして訥々と言葉を紡いでいく彼女。
「マジで!」
「まさか、こんな身近に居るとは!」
「で、値段はいくら?」
「初回1●●●円です」
「安っ!」
「まだ若いのにシミ取り必要?何処のシミが気になってるの?」
「左頬に一つだけ濃いシミが。これが気になって仕方ないんです」
「気になるシミが一つだけなんて羨ましい。私なんて無限にあるよ」
「うん。見渡す限りシミ。そのうちシミで顔面が埋め尽くされるかも知れない」
「怖っ!櫻ちゃんがシミオバケに!」
「恨めしや~。おまえもシミだらけにしたろか~キィィィ――!(奇声)」
奇想天外。急遽現れた※カモの現物を前にして、厄介でおバカなおばちゃん達は興味津々。お遊び全開。
※可愛い可愛い後輩です。こき下ろしている訳ではありません(笑)
「で?どれくらい使ってるの?効果あるの?」
「一ヶ月ほど使っていますが、全く効果を感じません。塗って暫くはしっとりしてますけど」
「はぁ……しっとりねぇ……」
だったら保湿剤を使えば良くない?シミ取りを狙って「しっとり効果」だけなら無意味でしょ。
「チナちゃん(仮名)さぁ、看護師なんだから。シミのメカニズム分かるでしょ。素人じゃないんだから、そんなのに騙されちゃ駄目よ。お金をドブに捨てる様なものだから」
「そうですよね。内心レーザー治療しか根本的に消せないと分ってるんですけど、美容皮膚科に行くのはちょっと……高額だし」
後輩は私の辛辣な言葉に打ち萎れる。
あちゃー。ちょっと言い方がキツかったかな。
「ゴメン、言い過ぎた。うん、その気持ちは分かるよ。リーズナブルな価格で手っ取り早く消せたら、そんな魅了的な商品はないもんね」
「そう。私も購入には至らなかったけど、気になったのは確かだし」
「とにかくさ、ファスナーは閉めようか」
未だ半開きの胸元のファスナーを上げてあげる。こんな天然な後輩を時々叱りながらも、可愛いと思っている私。
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