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「旦那、風邪じゃありませんか、気を付けてくださいよ」
さっきの浮浪者が佐々木に声を掛けた。
「うるせい、浮浪者が俺様に声を掛けんじゃねえ。汚れる」
「すいません、余計な心配しちゃった」
「お前何で俺に声を掛けた?布施でもいただこうって魂胆か?」
「いえ違います。確かにいただく時もあります。3年前にここで腹痛で倒れた人がいたんです。俺は知らんぷりして通り過ぎました。翌朝そのまま死んじゃったんです。俺が声を掛けて救急車呼んだら助かったかもしれない。それから、具合悪そうな人には声を掛けているんです。駅前の交番のお巡りさんからも頼まれています」
「嘘吐け浮浪者、浮浪者が余計なことするんじゃねえ、ほら小銭だ拾え」
佐々木はポケットから小銭を道路にばらまいた。
「俺、浮浪者ですけど空き缶集めをしています。食う分は困っていません。ほら貯金もしてんです。気を付けて、俺行きます」
浮浪者は空気の少ない自転車を手押しで映画街から出て行った。佐々木が追い掛けた。
「おい待ちなよ、そう膨れるなよ。女と一悶着あってさ、虫の居所悪かったんだ。たまたまあんたに声を掛けられたから悪気はねえけどあたっちまった。許してくれよ」
佐々木が浮浪者の肩を叩いた。
「旦那、風邪薬ありますよ。さっきからずっとくしゃみばかりしてるから飲んだ方がいいよ。これ汚くない、買った薬だよ」
浮浪者は薬の瓶を差し出した。
「一回3粒、6粒持って行きなよ、駅で水を飲めばいいよ」
「そうかい、そりゃありがとうよ」
佐々木は受け取る振りをして膝蹴りを浮浪者の顔面に入れた。鼻から血を吹いて仰向けに倒れた。両手を掴んで引き摺り蕎麦屋の入り口に引っ張り込む。胸をまさぐると紐付きの札入れがある。引っ張ると浮浪者の顔ごと持ち上がる。顔に足裏を当て引っ張った。結びが解けて佐々木は後ずさった。中身を抜いて札入れを浮浪者の顔に投げた。
「こらっ、これからは人見て声掛けろ」
佐々木は駅に向かって歩く。徳田はこの様子をじっと見ていた。すぐに塚本金融に電話を入れた。
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