都橋探偵事情『箱庭』

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「あんたも律義な人だなあ。分かりました。あなたに迷惑は掛けません。私一人で道具を揃えて来ます。それじゃこの電車で行ってすぐにとんぼ返りするよ。馴染みの道具屋だから裏から回れば開けてくれる。事務所は桜木町だったよね。着いたら電話します。もし旦那の知り合いで割烹屋があれば口利きお願いします」  始発発車の案内が流れる。佐々木はこれに飛び乗りたいために適当な嘘を連発する。徳田はジャケットの内ポケットをまさぐった。 「あれっ、ない、ちょっと待って」  コートからズボンまで探す振りをした。 「ああっ、旦那閉まっちゃった」  閉まるドアに未練が残る。駅には人っ子一人いない。階段を駆け下りる複数の靴音がする。パンチパーマの軍団が駆け下りて来た。 「佐々木さん、どうして浮浪者を襲った」 「て、てめえ騙したな」  徳田にストレートを繰り出した。一歩下がってコートからステッキを出した。スライドして耳に叩き落とした。金融屋の若い衆が四人で佐々木を取り押さえた。 「後は頼む」 「所長お疲れです、助かりました」 「どうすんだこいつは?」 「首輪付けて福富町でサンドイッチマンでもさせますか」  若い衆が笑った。 「許してください。ここに7万あります、利息分です」   佐々木は懇願する。 「その金は映画街の紳士から奪い取った金だ。私が返してこよう」  若い衆が全額を徳田に渡した。 「その2万は俺んだよ」  佐々木が未練がましい。若い衆に頭をげんこつで殴られる。 「何だお前、耳垂れか、そうか耳垂か」  徳田のステッキで叩かれた耳が三分の一ほど千切れている。その耳を引っ張った。
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