都橋探偵事情『箱庭』

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「晴れそうなことを言っているけどなあ天気予報も。返事もう少し待てないかな?」  『来い』と言えば支払いが発生する。小さな工務店だから雇用の無駄は即経営に関わって来る。 「始発前に決めてもらわないと。俺はどっちでもいいですよ。休みにした方が正解じゃないかな専務」 「そうしようか、悪いね、明日は宜しく」 「気にしない、気にしない。出面泥棒はしない性格だから」  行くだけ行って雨で中止になっても日当は支給しなければならない。支払いを渋れば手配士が黙っていない。寿の作業員のバックには手配士がいる。手配師の裏にはやくざがいる。利用する側は仕事量に合わせて人数や日数も選べる利点はあるが、約束事も多い。支払いが滞ればきつい催促が待っている。  坂本は道具をコインロッカーに入れてある。取り出しに行くと若い男女が走り去る。 「おい、忘れもんじゃねえのが?」  逃げる男女に声を掛ける。ロッカーナンバー18の蓋が開いていて中身が見えたからである。手を突っ込むと温かい、気持ち悪くてすぐに引っ込めた。犬か猫だと思った。じっと見つめていると懐かしい匂いがする。包まった毛布を引っ張り出すと赤子だった。また押し込んでその場を離れた。酔っ払いがロッカーに近寄った。酔っ払いが赤子のロッカーを見ている。飛び出して酔っ払いを突きとばした。赤子を抱いて走った。ドヤに戻り毛布を広げた。泣き出した。  安物の革のコートの襟を立て、シルバーのマフラーを首にかけて長く垂らしている。寒いが流行だからそうしている。男はパチンコ屋の前で煙草を吸い終える度に中を覗いている。咥えたのは12本目である。しばらくすると女が出て来た。上下青色のジャージにピンクのジャンパーを羽織っている。ジャージのポケットから札を出して数える。数えている途中で男が捥ぎ取った。 「何すんだよ」 「うるせい」  男は歩き出した。  
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