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「若い時の職業は?知り合いは多い方でね、あんたさえその気ならば紹介する。金融屋には利息無しで話しを付けてやろうじゃないか」
徳田は佐々木のやる気を探った。
「若い時に板前をやったけど道具はない。流しの板が道具無しじゃ信用してくれない。この齢で小僧からやり直しはごめんだ」
「道具を揃えてあげよう。伊勢佐木に古い金物屋がある。私の顔で後払いでいい」
徳田は佐々木がやり直すと言うなら協力を惜しまない。元金が戻れば依頼人も徳田の顔を立ててくれる。
「道具は馴染みの店で揃えたいんだ」
「一緒に行こうじゃないか」
「合羽橋なんだ。俺を信用して欲しい」
「いくら必要かな?」
「やっぱり10万はいる。安いもん見せびらかしても恥をかく」
徳田は佐々木の人となりを把握した。嘘吐きに分類出来る。10万を騙し取ってとんずらするつもりである。開業以来色んな人生を見てきた。仕事量の八割がやくざからの人捜しで残りが浮気調査である。この男は人生やり直すことを放棄して人を騙すことで食い繋ぐ狡さを覚えてしまった。
「いいでしょう、明日10万用意しましょう。一緒に合羽橋まで付き合いましょう」
「ありがとうございます。外の連中は大丈夫でしょうか?」
「私に免じて今日の所は引き取るように伝えます」
「すいません、あなたは?」
徳田は名詞を出した。
「都橋興信所?」
「所長の徳田です。佐々木さん私を騙さないでくださいよ。人生をやり直してください。30万なら半年で返せるでしょ。寝場所が欲しけりゃドヤを紹介しますよ」
「ありがとうございます。なあに道具揃えて乗り込めば日雇いでも1万はもらえます。宿舎付きの店なら酒も博打も我慢して一月半で返して見せます」
徳田は佐々木の話を信じてみることにした。ハナから疑って掛かれば真実は見えてこない。翌日の10時に合羽橋で待ち合わせをした。
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