都橋探偵事情『箱庭』

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「吉野お前ならどうする?」  小野田が新人の吉野に同じ質問をした。 「お前に訊いてんだばか野郎」 「お前だよばか野郎」  中西の言葉をそのまま吉野にぶつける。中西が吉野の頭を叩いた。 「何で俺なんすか?」  吉野は不貞腐れた。 「小野田、山下埠頭に逃げられると面倒だ、水上警察に電話して公園との境を張るよう伝えろ」 「はい」  吉野がマリンタワー事務所に電話を借りに走る。 「西さんならどっちに逃げます?」  中西は考えた。 「高崎が横浜に来て何年だ?土地勘による」 「あいつは岡山の漁師の倅ですよ。船を操れるから水上でシャブを卸していたんです。横浜はまだ日が浅いと思いますよ」 「海だ」 「えっ?」 「海だよ。俺なら海に飛び込む。大黒ふ頭か瑞穂ふ頭、どっちかだ」 「この寒いのに」 「入っちまえば陸より温かい。漁師の倅じゃ一日中浮いてるよ」 「どっちすかねえ?」 「お前ならどっちに泳ぐ?」 「俺っすか、俺なら大黒ですね、名前がいい」 「よし、瑞穂ふ頭に先回りだ」 「なんすかそれ」  吉野を拾って車で飛ばす。架け替えが決まっている瑞穂橋を渡る。 「米軍と自衛隊が倉庫代わりに使っている島だ。一部返還されたが埋め立てのこんな地まで接収されちまったんだ」  米軍管理エリアのフェンス脇を走りながら中西が言った。
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