都橋探偵事情『箱庭』

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「吉野お前は何年生まれだ?」 「昭和40年です」 「40生まれか、そうか、それなら泳ぎは得意だろ」  中西が助手席の吉野の肩を解した。吉野は嫌な予感がした。 「いや金槌です」 「何?」  小野田に睨まれた。 「お前大学出てんだろう、大学出が泳げねえでどうする」  根も葉もない理屈で攻められた。 「マリンタワーが一番きれいに見える場所に停めろ」  中西に言われて車を移動する。 「沖に向けてライトを照らせ」  ヘッドライトを上向きにした。 「少し車を前後して向きを調整しろ」  中西が車の前に出て手で位置を指導する。 「こういう感じに停めろ、もう少し右だ」 「泳ぎますかねえ」  吉野が首を傾げた。中西に頭を叩かれた。 「泳ぐからここでこうしているんだろう。それが捜査ってやつだ」  答えた中西も自信がない。もしかしたら今頃はホテルの一室で酒を喰らっているかもしれない。 「吉野、お前準備運動しておけ、いくら大学で水泳やってたからっていきなり飛び込んだらふくらはぎを攣るぞ」  小野田がアキレス腱を伸ばしながら言った。 「小野田さんも飛び込むんですか?」 「先ずはお前だ、お前が海中で高崎を押さえたらそれでよし。やられちゃったら俺が行く。後輩の面倒は先輩が見るんだ、当たり前だろう」  吉野は岸壁から海を覗いた。へばりついていたフナ虫が一斉に移動した。吉野は身震いしてフナ虫の映像を断ち切った。
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