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都橋探偵事情『箱庭』
始発前の関内駅には貧困が漂っている。土方、ホステス、そして浮浪者。懸命に生きるも進む道が制限された者達。生まれた時のスタートラインは同じではない。親が自宅住まいか借家住まいか、それだけでスタートラインに差がある。その差は縮まるどころか拡がる一方である。地方に生まれた次男三男は居場所を失う。一先ず東京を目指す。男は土方、女はホステスに落ち着く、そこから落ちれば浮浪者となる。同じ境遇の若者と傷をなめ合い、そして騙し合いが始まる。
1970年4月23日、始発前の04:15分。ホステスから滑り落ちる寸前の女がいた。橋下和子23歳、コインロッカーに入れた着替えを取りに行く。アパートはあるが家賃を4ヶ月滞納して戻るに戻れない。大家に鍵を換えられてしまった。貴重品と化粧用具、それに数日の着替えをバッグに入れてコインロッカーに入れている。コインロッカーに近付くと若い女が逃げるように走り去った。同じ臭いがする。貧しくて行き場がないから顔に余裕がない。
「あんた~」
呼んだが鍵を掛けずに行ってしまった。ロッカーナンバー23。和子は辺りを見回した。置き逃げしたロッカーを開ける。動いた。泣き出した。和子は焦ってその場を離れた。泣き止んだ。そして戻りロッカーから取り出した。笑った。
「どうしたの?うん?」
自分の荷物は置いたままベビーを連れ去った。
石川町から徒歩すぐのところに寿町がある。横浜のドヤである。ドア住まいの坂本忠32歳は東京の工務店に通っている。初めは手配士からの紹介だが気さくで真面目な性格が工務店の社長に気に入られて連絡も直接するようになっていた。帰りがけに翌日の雇用を確認して帰る。出勤前に雨降りなら電話を入れて確認する。1971年、6月25日、梅雨真っ只中の早朝だった。
「雨が凄いけどどうしますか?」
坂本が工務店に電話を入れたのは04:25分である。
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