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ep11
どうやら報告するような何かが起きたのだろう。
応接間から出てきたメルトビア兵士に、ガレンが何があったのか尋ねる。
「おい、何があった?」
「それが…、イアン殿がリシュエル様をいきなり殴り飛ばしまして…。」
それを聞いてガレンとグレースはと内心溜め息ついた。
自分達が、休憩から戻った時の怒りように、いつかはやるんじゃないかと思っていたのだ。
逆にセリスは、顔を青ざめさせて本当にやっちゃったの!?という信じられないような表情をしている。
そんな三人にメルトビア兵士は続ける。
「それだけではなく、お二人が戦闘を始め…」
「「「戦闘!?」」」
戦闘という言葉に三人は驚愕する。
セリスは、居ても立っても居られなくなり、兵士に訓練所の場所を聞く。
そして、足を怪我しているのも忘れて、勢いよく駆け出した。
その後をガレンとエミリアも追いかける。
(もし、またあの魔法を使われたら…。いや、きっと使うはず。だとしたらイアンは不利だ。何か対策でもあるのかな。)
セリスは走りながら、先ほど目の当たりにしたリシュエルの魔法を思い出し、イアンの身を案じる。
そうこうしている内に三人は城から少し離れた訓練所に着いた。彼らは扉の前に立ち止まる。
そこでは、外からでも分かるような轟音がしている。
「おいおい、もう始まってるのか。急ぐぞ!」
ガレンの言葉を合図に三人は訓練所に入った。
訓練所の中には、イアンとリシュエルだけで、他の兵士達は居ないようだ。
出ていくように促したのだろう。
「イアン!」
セリスが名前を呼ぶと、イアンは振り向き瞠目する。
「セリス!?お前なんで……。足の怪我は。…まぁいい、そこで見てろよ。」
そして彼は、こう言うと再びリシュエルの方を向き、見据える。
殴られて吹き飛んだ、リシュエルは立ち上がりながらイアンを睨む。
「貴様!よくも!」
「今のはセリスを脅した分だ。
本番はこれからだ。セリスをかけて今ここで俺と勝負しろ、クソ王子」
(((ついにクソ王子って言った)))
ガレン、エミリア、セリスの三人は、内心同じ事を思った。
「貴様がオレに勝てるとは思わないが、良いだろう。受けて立ってやる。」
「言ってろ。俺が勝ってテメェとセリスの婚約を取り消させてやる。そして、キッパリと諦めさせてやる。」
イアンとリシュエルが対峙する。
先に仕掛けたのはリシュエルだった。
彼は、「手加減はしない!」と言うと、灰色の小さな魔法弾を複数作る。そして、イアンに向けて撃った。その魔法弾は、高速でイアンに向かって多方向から飛んでいく。
「この魔法弾は当たると重さを与えるようになっている。せいぜい頑張って躱すんだな。」
「(チッ。そんな使い方も出来るのか。だが、当たらなければ良いだけだ。)」
四方八方から向かってくる魔法弾を、イアンは雷撃波で全て撃破する。
そして、天雷球を連射する。すると、リシュエルは、天雷球を鋭い剣捌きで次々と叩き斬っていく。
斬られた天雷球は、真っ二つになり、小さい音を立てて消滅する。
「(流石は王族といったところか)」
イアンは、リシュエルの剣捌きに心の中で関心する。
「オレ相手に魔法しか使えない貴様など相手ではな
「まだ分からないだろ。油断してると痛い目みるぞ!」
リシュエルはイアンを軽侮した。
そんなリシュエルに、イアンは至って冷静に返すと、今度は掌から雷撃波を放った。
放たれた雷撃波は一直線にリシュエルに向かう。
「くっ!」
リシュエルは、それに気付くと咄嗟に飛び退いだ。だがしかし押され始め、防ぎきれないと悟ると、後ろに飛び退いた。
それによって、リシュエルは雷撃波から逃れる事に成功する。
両者は再び距離を取ると睨み合う。
イアンとリシュエルの戦いを、セリス、ガレン、エミリアは離れた場所から見守っている。
「ほぼ互角か…?」
「今の所はね。でも、魔力は王族の方が多いし、長引くほどイアンは不利になるよ」
「だよな……」
「………(イアンなら大丈夫)」
二人の戦いを見ながらガレンとエミリアが話す中で、セリスはイアンを信じ黙って見守っていた。
そんなセリスの心境を察したのか、ガレンとエミリアが、彼女に声をかける。
「心配すんな、アイツなら負けねぇよ。」
「そうだよ!何せ、セリスがかかってるんだから、負けるはずない!それより、足大丈夫?」
「心配はしてないよ。イアンの事、信じてるし。足?」
「そう、右足首捻挫してるんでしょ?」
「……そういえば、そうだった。忘れてた。」
アハハと笑ってごまかすセリスだが、指摘されたことで、忘れていた痛みが戻ってきて顔を強張らせる。
しかも、走ったせいで悪化させたのか、先程よりも強く痛むようで、右足首を手で押さえる。
「あ、いったたたっ!ものすごく痛い!」
「あれだけ走ったんだから当たり前でしょ。床に座ってなよ。」
「だってイアンの事が気がかりで、それどころじゃなかったし。うん。そうさせてもらう。」
エミリアは呆れながら溜め息つくと、座るように促した。セリスはボソボソと言い訳をしながら素直にその場に横座りした。
一方、イアンとリシュエルは互いに睨み合ったまま牽制し合っている。
そんな中、イアンが口火を切った。
「おい、一つ聞かせろ。」
「なんだ。」
「なぜ、そこまでセリスに固執する?アイツは普通の魔法士で、普通の女だぞ。王族の人間が欲しがるような奴じゃない。」
「そんな物は関係ない。欲しいと思った物は手に入れる。」
「だから、それが何でだって聞いてんだよ!」
イアンは、そう言いながら風魔法で手風を纏わせて、振り払うような動作をする。すると風の刃がリシュエルに向かって飛んでいった。
ここから二人の戦いは白熱していく。
「なぜ貴様に教えてやらねばならんのだ!」
「テメェが、俺からセリスを奪おうとするからだろうが!」
リシュエルは風の刃を躱す。
しかし全てを避けきれず、顔に切り傷がつき、服も所々切れている。その間にイアンは、天雷球を無数に出出現させ、リシュエルに向けて一斉に放った。
全てがリシュエルに命中したかと思われたが、そこに彼の姿は既になかった。
「なっ!?居ない!?」
「遅い!」
彼は、いつの間にかイアンの目前にまで間合いを詰めていたのだ。
驚くイアンに、リシュエルは剣を振るうが、間一髪の所で、それを横に躱した。しかし、剣先が右肩に掠り血が滲む。
隙を与えないように連続で剣を振るうリシュエル。
イアンは、それを避けながら、手を帯電させる。そして渾身の力を込めて、その手でリシュエルにボディーブローを入れる。
「ぐぅ!」
リシュエルは、衝撃で後方に吹き飛び壁に激突した。
「かはっ!」
まともに攻撃をくらったリシュエルは、口から血を吐き出し、動かない。イアンはその隙に距離を取り息を整える。
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