女の幽霊

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暁治(あきはる)がその事故物件に住んだのは、家賃が安かったのとほんの少しの好奇心が理由だった。 「そんな理由であの有名な事故物件に住んでいるわけ?!お前、馬鹿だな~。」 そう大学の食堂で一緒に昼飯を食べていた暁治の友達である成市(せいいち)は言った。そのデカい声は食堂でよく響いた。 暁治は目の前の男の声の大きさに顔を顰めながらも、「仕方がないだろ。俺は親から仕送りを貰っていないんだから。あそこが一番ここら辺で安かったんだよ。」と言い返した。 すると、成市は不思議そうな顔をして、「別に実家から通って来ればいいじゃん。お前の家って大学からそんなに遠くなんだろう?」と聞いて来たので、彼は一瞬げんなりした気持ちになった。 自分の望みよりもランクが下の大学に進学してからというものの掌を返すように冷たい対応をして来るようになった母親や、そんな親の態度を見習ったかのように見下してくる妹や、家には無関心で仕事と女遊びに精を出している父親を思い出したからだ。 ただ、暁治は目の前の如何にも家族に可愛がられてのびのび育てられたかのような成市にはそんな重い家庭事情を話す気にもなれず、「俺は一人暮らしをしている方が性にあっているんだよ。無事に入学試験に合格して大学生になれたんだし、自由を満喫したんだ。」と適当に答えた。 そうしたら、成市は「自由を満喫する前にお前の住んでいる所に出るって言う女の幽霊に憑りつかれて向こうに連れて行かれるかも知れないぜ。あ~。まだ大学1年生だって言うのに可哀そう~。」と言ってへらへら笑いながら、注文したカツ丼をバクバク食べた。 その後、二人は他愛もない話をしてから、それぞれ出なくてはいけない授業に向かった。
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