女の幽霊

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暁治はそのまま大学の授業を終えると、塾講師のアルバイトをしてから、その幽霊が出ると噂が立っている自分が借りたアパートの一室に帰宅をした。 (やっぱり、ここって何か変な雰囲気だよな。家賃が安くなかったら、こんな所に住まないのに。) 暁治は自宅に帰って、早々にそんな事を心の中で呟いた。 彼は成市の幽霊に向こうに連れて行かれるかも知れないなんて言葉を真に受けているわけではなかったが、それでもここはじっとりした嫌な空気が漂っているのは事実だった。 その時、暁治の持っているスマホの着信音が鳴った。 彼はその音に一瞬ビクッとしてから、そんな自分を振り払うかのように、急いでスマホをチェックした。すると、同じ塾のバイト仲間の美麗から電話が掛かって来た事が分かった。 「もしもし?」 「あ、暁治君!出てくれて、良かった。」 スマホから響いて来る美麗の声は何処か安堵が滲んでいて、暁治は何かあったのかと不思議に思った。 「何かあったの?生徒の親からクレームでも入った?」 「ううん。そう言うんじゃなくて…。ねえ、暁治君って塾にお財布を忘れて行かなかった?あなたの持っていたお財布に似ている奴が教室に置きっぱなしになっていたみたいで…。」 「え?!」 彼は慌てて鞄の中を確認してみると、その中に仕舞っていた筈の財布は何処にもなかった。そのまま塾にいるらしい美麗に財布の中を見てもらうと、暁治の保険証があったので、彼の忘れ物である事は間違いないと判明した。
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