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 「戻って来た子供たちはなんと言っているんですか」  「碌迷館の門をくぐった記憶はあるが、それ以降のことはなにも思い出せないそうだ。けれどその間、とても楽しい夢を見ていたと言っている。この世のものとは思えないほど幸福な夢を。そしてその夢がなんだったのか、全く思い出すことが出来ないとも」  「それで諸戸先生はあの碌迷館が怪しいと睨んでいるんですね」  「もしかすると碌迷館の内部には実験施設があって、人間の人格を凶暴化させるような人体実験が行われているのかもしれない。ただ命令されるままに人を殺める人間兵器を作り出す研究は、世界各国で行われているからね」  茉莉は諸戸の言葉に寒気をおぼえた。あのきらびやかな世界の裏側にある暗闇を覗いてしまったような気になったからだ。  そういえば碌迷館には、純金製の錠前が掛かった秘密の扉があると言っていた。まさかその扉の奥で諸戸の言うような恐ろしい研究がおこなわれているのだろうか。  「それと」と諸戸は続けた。「さっき君と一緒にいたあの少年は、この事件に関与している可能性が高い」  「芳雄が?まさか。彼はそんなことをする人じゃありません」  「ワシは少年探偵団の三人がいなくなってから、十日間毎日欠かさず碌迷館で聞き込みを続けた。それで一つ気がついたことがある」諸戸は人差し指を立てた。「彼は両親と一緒じゃない子供を選んで声をかけている。君も声をかけられていただろう。行くところがないなら碌迷館においでと」  そんなはずはない、と言おうとして茉莉は口をつぐんだ。芳雄に話しかけられた時のことが脳裏をよぎったからだ。  ──見ない顔だけど、ここに来るのは初めて?お父さんとお母さんは?  あのとき芳雄は、茉莉に両親がいないことをさりげなく確認していたのではないか。一人でいる茉莉を心配するふりをして。そして言葉巧みに碌迷館内部の実験施設へと誘い出して…。  馬鹿な、芳雄がそんなことをするなんてあり得ない。そう頭では否定しつつも一方では諸戸の考えを受け入れている自分もいた。
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