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 *  三人は碌迷館の中へ入って行った。  ふかふかの赤い絨毯の上を踏みしめ、大理石の階段をのぼり、扉がいくつも並ぶ廊下を歩いていく。  「特別な部屋があるんです。その扉には純金製の錠前が掛かっていて」茉莉と諸戸を先導しながら芳雄が言った。「親のいない子供を見つけたら話しかけて、その部屋に案内していました。いろんな実験器具や機械なんかが並んでいて、畔柳博士は『子供たちには実験に付き合ってもらっている。用が済んだら解放してあげている』と言っていましたが、まさか解放された子供たちが、そんなことになっていたなんて…」芳雄の声は少し震えている。  「君は利用されていただけだ」と諸戸。「しかしその畔柳はいったい何者なんだ。たった一晩でこんな滅茶苦茶な館を建てたり、空飛ぶ汽車を造ったり。とても人間業とは思えん」  「博士は自分のことを世紀の発明家だと言っています。それ以上のことは僕は何も」  「発明家ねえ」諸戸が呟く。「いくら世紀の発明家とはいえ、こんな常識外れな館を造れるだろうか」  と、芳雄が足を止めた。  三人の前には白い壁があるばかりだ。  「行き止まり?」と茉莉。  「いいや」芳雄はそう言って右側の壁にかかっていた燭台に手を伸ばした。  燭台を下に引っ張ると、壁の向こう側からカチッという何かの仕掛け装置が働く音がした。行き止まりだと思っていた壁が、音を立ててゆっくりと横にスライドしていく。三人の目の前に上へと続く階段が現れた。 「隠し通路か」諸戸が言う。  階段は子供が二人並んで通るのがやっとくらいの幅しかなく、壁の両脇にかかっている燭台もまばらにしかないせいか少し薄暗い。華やかな碌迷館にはそぐわない造りのように思えた。  「この上です」
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