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「彼らはとても楽しい夢を見ているの。起こさないであげて」
ふいに室内に甲高い声が響き渡った。
振り返ると部屋の入り口に女が立っていた。二十代前半ぐらいで、透き通るような肌のとても美しい、けれど少し神経質そうな顔をしている。
「畔柳博士、どうしてここに」
「自分の研究室にいちゃ悪いかしら」博士は芳雄の顔を見て、茉莉の顔に目を移し、それから諸戸の顔を見た後に、まるで極度の老人アレルギーであるかのように不愉快そうに顔を歪めた。「芳雄、あなた誰に断ってここに部外者を入れているの」
「私が芳雄に頼んだんです。ここに案内するように」茉莉は怯えて後ずさる芳雄を背中に庇って一歩前に出た。「少年探偵団のみんなを解放してください」
「もちろん解放してあげるわ。でも今は駄目よ、用が済んでから」博士はそう言いながらハイヒールの音を響かせて、巨大な機械に歩み寄った。
「この機械はなんだ」と諸戸。「なんのために子供たちをこんな箱に閉じ込めている」
「子供たちの夢を吸い上げるためよ。吸いあげられた夢はこの機械で増幅され、現実世界に具現化される。頭の中に浮かんだものなら、なんだって生み出せるわ」博士が機械を指差して言う。「あなたたちも見たでしょう。空飛ぶ汽車や、妖精や、恐竜、それからこの屋敷。常識はずれなものは全部、この機械が作り出したものなの」
「目的はなんだ。まさか子供たちの夢をかなえてあげたいから、なんて言うつもりじゃないだろうな」
「夢を具現化させるのはあくまで手段に過ぎないわ。目的はこっち」博士はそう言って、青い液体が入ったフラスコを手に持った。それはどろりとした粘性を帯びており、怪しい光を放っていた。「これは碌迷館に来た人たちの“正の感情”を抽出して液体にしたものよ」
「正の感情?」と茉莉。
「楽しいとか、嬉しいとか、愛しいとか、そういったポジティブな感情のこと。これを飲めば体内の細胞が活性化されて若返るの。私は永遠に美しくいられるってわけ」
「馬鹿な」諸戸が声を上げる。「たかが若返りの薬のためだけに子供たちを犠牲にしたのか、この狂人め」
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