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俺の中には、あるいはこの家には、ともやんが来ている間にだけ、動く時計がある気がする。
それは目に見える普通のアナログ時計とは違って、反対方向に進んで、途中で止まる。壊れているのだ。
だから、確実に歳は取って行っているのに、感覚はずっと毎日遊んでいた頃のままでいる。
同級生は結婚したり、子供が産まれたり、家を買ったり、親の介護が始まったり、離職や離婚したりと、人生ゲームで言うところの盛り上がりを色々経験しているらしい。
そういった事への焦りや危機感というものを、感じる人がいるのも知っている。何なら大半がそうだろう。
俺には、それがない。物事は何でも自然な流れで、なるようになっていくのだ。古いゲーム機のケーブルが、新しい家電から淘汰されていくように。
ゴミをまとめ、歯を磨き、暗い中で布団に入ってからも、しばらく話し込んでしまうのもまた、いつもの事だ。
そこでようやく、ともやんの近況をちゃんと知る。
一方で俺には、報告しようと思えるような近況は一つもない。
社会人になって十八年。家族に色々あった後、今の会社に転職したのが何年前だったのかも、覚えていない。
転職せざるを得なくなったきっかけなら、何年も前に話した。簡単に言えば、男女のいざこざだ。
当時勤めていたのは小さな会社で、社長から、女の子を紹介された。大阪のミナミで生まれ育った子だった。はっきり物を言うし、よく喋る面白い性格で、同世代の女子にしては珍しく、ゲームの話もできた。
デートするのは楽しかった。色々と積極的な子だったから、誘われるままホテルに行ったり、ウチに泊まりに来たりもした。ともやんが来る予定とはバッティングしないようにだけ、気にしていた。
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