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やりたかったゲームがこんな形でできなかったのは、裏切られた気分だった。が、いちいち引きずってもいられない。
つまみをティッシュの上に広げ、酒を飲みながら、シリーズの新作が出たばかりの格闘ゲームをやった。
中学の帰りに、二人でこっそり校区外のゲームセンターまで行って、アーケード版の筐体で遊んでいたシリーズだ。
まさかここまでこのシリーズが続くとも、家庭用版として出るとも、当時は知らなかった。薄暗くて換気の悪いゲームセンターと、電気を消した俺の部屋に篭る煙草の匂いだけが、二十年前と同じだ。
「オレ昔、こんな大人なる思てなかったわ」
ともやんが横で言うのが聞こえた。
コントローラーを動かす度、腕や肩も一緒に動いている。レバーやボタンのカチャカチャ音も大きくて、力が入っているのが分かる。
「そうなん。俺は思とったで」
俺は、無駄な力は込めたくない。胡座に組んだ足の上に置いて、優しく持って、指先だけで操作をする。
「嘘つけや」
「ホンマや。お前が東京に配属されんのも分かっとった」
「ほな何であんなヘコんどったん?」
お互いに画面を見たまま会話を続ける。
たった二秒の瞬きすら命取りになる対戦中に、口から出任せに話していられるのは、ともやんだけだ。そんな相手と今までのように会えなくなるのが寂しかったからに決まっている。当時は、東京がとても遠い場所に思えていた。
「ちなみに言うとやけど中学ン時、お前がヨコちゃん先輩にフられんのも分かっとった」
俺は答える代わりに、話を逸らした。
「お前が告れ言うて来たんやろ! 分かっとぉねやったら止めろや!」
ともやんが大声で言ってきたので、俺も同じ音量で言い返す。
「なんや、俺が言うたら止まってたんか! お前の愛情そんなもんか!」
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