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無理をして合わない他人にまで合わせる必要はなく、他人に時間を割かずに済むのは楽だと、今の俺は気が付いている。
開き直りではなく、もし、あのミナミの女の子と結婚していたら、今のこの生活はないのだと思うと、これで良かったとしか思えない。
一人になってからと言うもの、俺の時間は、ともやんが来ている間しか動かなくなった。
たまに、本当に時間が止まっているような気がする。もう何十年と同じ時間を繰り返して、変わらない毎日を送っているように思う。
人生という名の冒険を通して、レベルアップするという実感が湧かなくなった。ラスボスもいなければ、ステージクリアもない。
そこへ、ともやんは急に現れて、目に見えないドライバーで、おかしくなってしまった俺のネジを回す。一緒にいる時間こそが、俺の人生と言っても過言ではないのかも知れない。
「これ、ホンマは内緒やねんけどな」
このともやんの前置きも、もう何回聞いたか分からない。
俺とともやんは、家族や彼女にすら言っていない秘密まで共有する仲だった。
小学生の頃、エロ本が捨てられているのを見つけた時も、ともやんは俺だけ連れて行ってくれた。中学で初めて女子から告白された時も、俺にだけ教えてくれた。
恐い先輩の通り道に犬の糞で罠を仕掛けたのも、ゲームセンターでカツアゲされそうになって必死に逃げたのも、モテる同級生に渡すよう頼まれたバレンタインのチョコレートを勝手に食べたのも、俺ら二人だけの内緒だ。
高校生になって、俺が校則で禁止されていたアルバイトをしていた事も、大学受験にわざと失敗した事も、知っているのはともやんだけだ。
「おん。何?」
秘密を聞く事に、今更何のためらいもない。
「たぶんオレ、神戸戻って来る思う」
それを聞いた瞬間、俺は体を起こすほど驚いた。
「えっ? えっ! ホンマに?」
変わらない毎日の中に訪れたビッグニュースだった。
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