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ともやんは体を俺の方に横向けたまま頷く。
「まだ辞令出てへんねんけど、もう声は掛けられとって。神戸支所の偉いさん亡くならはって、ほんで、行ったってくれんかーみたいな」
「やったやんけ!」
嬉しくなって言ってしまったすぐ後に、反省する。
「……いや、やったはちゃうか。理由が理由やしな」
不謹慎だったが、ともやんは喉の奥で笑う。
「まあでも、ホンマの事やし。オレにとっても栄転やろ」
「そうなんか? 東京の方が花形ちゃうんか」
「東京はもう人間も仕事も飽和状態なっとぉからな。地方で偉なったった方がええわ」
体を布団に戻して、ともやんと向かい合う体勢で横に向ける。
「よう分からんけど、支所長みたいなこと?」
「さすがに長とまではいけへんよ。その補佐役みたいな感じやろ」
「ほなもう転勤せぇへんてこと?」
「知らんよ。そこまでは聞いてへん」
とりあえず、神戸には戻ってくるらしい。
どれくらいの期間なのかは分からないが、今よりもっと会いやすくなるのだ。そうでないと、俺にこんな話をするはずがない。
ともやんは少し切り出しにくそうに、話を続ける。
「ただこれ、正式に決定しても親に言いにくいねんなぁ……」
「何でや、めっちゃ喜ばはるやろ」
「せやから言いたないねんて。めんどくさいねん。この歳で実家帰るとか、ナイやろ」
『ナイ』と言ったともやんの言っていることは分かるが、人の生活や生き方に、正解不正解があるとは思わない。
「そんなん言うたら、俺生まれてから死ぬまでここやで。地元も出んと、実家」
勿論、今の俺の人生が悪いとか間違っているとも思っていない。ただ、どこかがバグっている気がするだけで。
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