カウンタークロックワイズ

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音声と映像の信号をまとめて送るHDMI端子の差し込み口しかない。ケーブルの断線以前の問題だ。物理的に、接続不可能なのだ。 「はあー?」 納得いかなそうな声を上げたのはともやんだった。 しゃがんだ体勢で寄りかかってくる。俺も力が抜けて、その場に腰を下ろした。 「買い換える時何にも気にしてへんかったなぁ。まさかこんなん発掘する思わんで……」 「確かに、それもそやなぁ」 ともやんも切なそうに言って、酒を一口飲む。 あれだけ熱中した自分たちでさえ、存在を忘れていたくらいなのだ。 「もうこのゲームする人おるとか、想定されてへんねやろなぁ。さらで売っとんのなんか見いひんもん……」 好きだった物が、時代の流れで淘汰されていく。こういう事があると、すごく歳をとったように感じる。 行き場を失った三色ケーブルは、外側のゴムが変色していたし、内側も少し錆びていて、自分そのものみたいだった。 俺とともやんは、ちょうど日本にテレビゲームが普及して、急速に進化した頃に生まれた。ゲームと一緒に成長してきた。 グラフィックは2Dドットから3Dポリゴンに、オーディオはモノラルからステレオに、それを内包するロムカセットは光学ディスクに、コントローラーはケーブルではなく赤外線で繋がるようになったのを、文字通り体験してきた。 データは外付けのメモリーカードではなく内蔵ハードディスクに記録して、インターネットに接続、それを通しての共有が当たり前になった。画面を写真に撮る必要も、ソフトをパッケージで買う機会もなくなった。 新しい技術が搭載される度に驚き、感動したものだが、今となってはそれが切ない。粗くても、不便でも、敢えてそれを選びたいほど恋しく思っている。 「世知辛い世の中やで」 ともやんは尻で後ずさりして布団の上に戻り、俺もケーブルを段ボール箱に戻す。期待させた分、申し訳なくなる。
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