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目が覚めると、白い天井と壁の境に施された木製の飾り細工が目に飛び込んでくる。そこは実家のベッドの中だった。あの王宮の天井の、目新しく塗られた金色の塗料や、目を見張るほど大きくて豪華なシャンデリアはそこには無い。ぼーっとそれをしばらく眺めていると、扉をノックする音がする。返事をすると、扉から入ってきたのは懐かしい顔だった。
「マリア!」
私が小さな頃からこの家に住み込みで働いているメイドのマリアは、私が最も信頼する人間の一人だ。学園で上手く馴染めずに度々泣いていた私をいつも慰めてくれていた。10歳年上の彼女は私にとって、姉の様な存在であった。
私が実家であるユンヴィ公爵家で暮らしているという事は、私が王宮へ召される前・・つまり学園に在学中かその前ということになる。本当に人生をもう一度やり直すというのだろうか。それとも────ユリウス殿下に殺された記憶も、女神シルフィ様とのやり取りも、全てが悪い夢だったのだろうか。
「まぁまぁ、そんなに驚かれてどうされたのですかクローディアお嬢様。緊張で怖い夢でも見ましたか?」
マリアは見慣れた優しい笑顔を私に向けた。
「緊張って、どうして?」
「だって今日はブリタニア王立学園入学の日ではありませんか」
え────。
「・・そう。今日だったかしら・・」
「まぁお嬢様、寝ぼけておいでですか? ご婚約者のユリウス殿下もご一緒なのですもの。さぁ、制服に着替えて準備を始めなくては」
マリアはクローゼットから真新しい制服を出したり髪を結う道具を用意したりと忙しなく動き回る。いつもよりなんとなく気合いが入っている様に思えるのは、多分気のせいではなく、登園初日であるからなのだろう。
(・・前の記憶でもそうだったものね・・)
この記憶が夢なのか私の妄想なのかは分からないけれど・・とにかく私は今日からニ年間、あの学園で地獄の様な日々を過ごさなければならないらしい。
「・・・・はぁ・・・・」
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