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早いもので学園生活が始まって一年が経ち、オーウェンら上の学年の生徒達は卒業となる。最終日には毎年恒例、学園主催のダンスパーティが催されるのである。貴族階級の紳士淑女達はこれを機に、それぞれ社会へと出ていくのだ。オーウェンもまた、騎士団への入隊が決定している。それ故か、この日は愛を告白する者達で溢れかえるのが恒例だ。
当然ながらこの時期の女性達の悩みは、パーティーにどんなドレスを着ていくか、それ一色なのである。
「私はやっぱりピンクかなぁ。レース遣いのふんわりしたやつ」
「でも他と被りそうよねぇ。流行りだもの」
「確かに。私は赤のシルプルなスレンダータイプにしようかしら」
「貴方はスタイルが良いからいいわよね」
「クローディア様は? 何色にするんですか?」
「さぁ・・なんでもいいけれど・・」
「駄目ですよ!? 前から思ってましたけど、クローディア様はお洒落に興味が無さすぎます! 素は良いのに勿体無いですわ!」
そう言ったのはアーシャ・ディアスだ。私達の年代では最も美しいと評判の、社交界の花である。
「そうかしら? 失礼のない程度には着飾っているつもりだけれど」
「全然足りません! 今まではそれで良かったかもしれませんが、クローディア様はユリウス殿下のご婚約者なのですよ? 殿下の名誉にも関わりますし、舐められては困りますので! そんな事ならば私が、一番美しく飾らせて頂きます!」
「あ、そう・・。ならお任せするわ。よろしくお願いします」
あの茶会の後アーシャは、まるで私の付き人かの様に世話を焼いてくる。最近ではユミルと双璧かの如く、私と殿下の周りをちょろちょろとしているのだ。早速取り入っていると陰口を叩く者もいるけど、私は単純な好意と受け取っている。そういった訳で、アーシャは数日前から学園にメイク道具を持ち込み、私に似合う髪型やらメイクやらの研究を始めたのだが、それに他の女学生らも集まり始め、メイク講習と化す始末。皆楽しそうにやっているので、何も文句はないのだが。
こんな光景、前の人生では有り得なかった事だ。少しの勇気の出し方で、こんなにも結果が変わるものなのだと私は実感していた。それもこれも全部、やり直す機会を与えて下さったあの方の────・・
「・・・・あれ? どうして私、人生をやり直すことになったんだっけ・・?」
・・・・。
また私の妄想かな・・。
パーティー当日、アーシャは自分を着飾る事も忘れていそうなぐらいに張り切っていた。
「やっぱりクローディア様の清楚な美しさを表現するには純白のドレスですわよね!」
テキパキと髪を結い、化粧を施し、宝飾品で飾り立てていく。
「清楚なクローディア様の美しさを際立たせるため、ドレスはあくまでシンプルに。その分アクセサリーは豪華なものを。さすが公爵家、立派な宝飾品がふんだんにございますもの。髪は結い上げて生花を飾って。お化粧はナチュラルだけど、目元と口元は印象的に。いつも薄化粧のクローディア様ですもの。紅い口紅を差すだけで、きっと皆どきりと致しますわ」
仕上がった自分の姿は、確かに、いつもよりだいぶ出来が良い様に見える。化粧の力ってすごい。
「クローディア様、とっても綺麗ですわ!」
「素敵! まさに深窓の姫君といった風ですわね!」
「アーシャさんすごい!」
「うふふ・・。これでもう誰にもクローディア様を、大した事ないとか言わせませんわ・・!」
大した事ないって言われてるのね・・。まぁその通りと思うけど。
「ありがとうアーシャ。これからは私ももう少しお洒落を勉強しないとね。これからも私達に教えて頂戴ね」
「そ、そんな・・もうっ、仕方ないですわねっ!」
アーシャは少し頬を染めてそう悪態をついてみせた。照れながらも、嬉しそうに見える。
「それじゃあそろそろ会場へ行きましょうか」
「何を言ってるんです。私達はそうですが、クローディア様はユリウス殿下にエスコートして頂かなくては。その方が殿下を狙う悪い虫が寄って来ませんからね。お声かけして来ますので、少しこちらでお待ちください」
「あら、そう・・」
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