卒業パーティーの夜に

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 状況に変化が見られたのはその蝋燭がほぼ形を失った頃だった。チェストの中に替えの蝋燭を見つけ出していた私は、燭台の蝋燭を新しいものに付け替えていた。外から響いてくる靴音に気がついて、私は慌ててベッドへと戻り、音を立てるのに使っていたナイフとフォークを布団の中へと滑り込ませた。湿気で蝶番が錆ているのか、ギギ・・と古めかしい音を鳴らして、扉はゆっくりと開かれた。手にした燭台に照らされながら、その奥から姿を現したのは案の定────。 「ユリウス殿下・・」  彼は貼り付けられた仮面の様な、気味の悪い笑顔を浮かべて私の方へと近づいてきた。 「居心地はどうだ? ゆっくり出来たかクローディア」  眼前に迫る彼の腰に剣が下げられているのを見て、身体が勝手に、全身から冷や汗を流れ出させた。その時に確信したのだ。  この記憶は妄想なんかじゃ無い。私は間違いなく、以前この人に殺された事がある。 「・・あまり良いとは言えませんわ・・。ここは一体どこなんです?」 「欲しいものがあれば言ってくれ。なるべく君の希望に添える様に最善を尽くすよ」 「せめて窓のある所が良いですわ。陽の光が浴びたいです。湿気も酷いですし、空気の入れ替えすら出来ないですもの」 「・・考えておこう」  彼はあの仮面の様な微笑のまま、テーブルの方へと移動した。おそらく自身が用意したのであろう、ティーセットを眺めやる。 「そうか。茶をいれるにも火を焚けないといけないのか。これは少し考えなくてはいけないな。茶ひとつ飲めぬとなると、あまりにも生活に難がある」  生活・・。  やはりユリウス殿下は、一時的にではなく、長期に及んで私をここに監禁するつもりなのだ。私は青ざめて、彼に訴えた。 「外ではどうなっているのです? 流石に騒ぎになっているでしょう。長引けば長引くほど、この件が明るみに出たときの問題が大きくなります。いくら貴方様が王太子であるとて追及は免れませんよ」 「君は何も心配しなくていい。君はただ此処で、俺の帰りを待っていればいいんだ」  彼は私を振り返った。そしてベッドの上に座っていた私の隣りへ、腰を下ろした。 「ここでは誰の邪魔も入らない。新婚生活を送るには悪くない場所だ」  新婚生活って────?  嫌な予感に全身がぞくりと背筋を寒くした。その予感の通り、私の身体は伸びてきたユリウス殿下の腕に捕らえられ、ベッドへと押し倒されてしまう。  
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