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蒼穹
その小さな呟きが耳に入った瞬間、咄嗟に意味が理解出来ずに丸テーブルを挟んだ隣で一人掛けのソファに腰を下ろし、長い足をベランダの手摺りで支えている横顔を見つめてしまう。
「……何だって?」
もう一度言ってくれないかとやけに喉に引っかかる声で問いかけると、長い足の先に向いていた視線が顔ごとこちらに向き、今まで数え切れない程見てきた笑みを浮かべる。
「……ゾフィーに会いに行くときは今日みたいに真っ青な空が良いなって思っただけだ」
告げられる言葉の意味は理解出来るが突然のそれの意味が理解出来ず、思わず背中を浮かせて腿に置いていた雑誌を取り落としながらテーブルに身を乗り出す。
「どうした?」
「ん? この間ノアが新しく出した写真集を送ってくれただろ?」
それは、お互いに兄弟がいるという事実を数年前に知った後、周囲の人たちの手助けと本人同士の相互理解の結果、兄弟でもあり友人でもあるという不思議な関係に落ち着いた青年、ノア・クルーガーが仕事の成果を写真集という目に見える形で送ってくれたのだが、それを見ているときに思い浮かんだと教えられ、同じものを見たはずだが己にはそんな考えが浮かんでこなかったと苦く笑うと、その苦みを解消するような甘い掌が頬に宛がわれる。
「ほら、ヤコブの梯子って呼ばれてる雲の切れ間から日が差してる写真があっただろ?」
「ノアが名刺代わりにしているポストカードの写真だったな」
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