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まだもう少し雪が降りだすまでには時間があるが雪が降り凍りつくような寒さに支配される冬になると左足の痛みが過去の事件への扉を開くのではないかという恐怖を覚えてしまうものの、その恐怖が感情を伴って全身へと伝播する寸前、今度は右手をぎゅっと握りしめ薬指に感じる冷たい金属の感触を利用してその恐怖を追い払う。
「……約束」
意識しないで流れ出すその言葉に自ら力を分け与えられたように顔をあげ細く長く息を吐いたウーヴェは、二重窓の外から視線を室内に戻し恐怖に囚われた心身が暴走しなかったことへの安堵に胸をなで下ろす。
もうすぐ着くと言ったくせに何故まだ姿を見せない、声を聞かせてくれないんだと日頃のウーヴェからすれば信じられないような言葉を胸の奥に不満げにぶちまけた時、診察室のドアが壊れたのではないかと疑ってしまいたくなるような激しい音を立てる。
突然の物音に恐怖を感じながらも物音の原因がなんであるかなど考える必要も無いほど明白だった為、呆れた風を装いながらどうぞと声をかける。
「ハロ、オーヴェ! ダーリンが迎えに来たぞー」
「……遅い」
「へ?」
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