Born To Be My Baby.

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Born To Be My Baby.

 暖炉の炎が日に日にありがたみを増し、季節が灰色の低く重い雲に閉ざされることを体感させてくれるようになったある夜、仕事に精を出している生涯の伴侶がまだ戻ってこられないことを短いメールから知ったウーヴェは、特に見たいテレビがあるわけでも無いためにベッドの中で本を読んでいようと決めてソファから立ち上がるが、その瞬間、すっかり馴染んでしまった疼痛が左足に生まれ、咄嗟に痛む足を押さえてソファに倒れ込む。 「……!」  ウーヴェがなかなか癒えない傷を心身に負った事件から時は流れたものの平穏に過ぎる日々の中に埋もれようとすると、こうして痛みを伴って事件を思い出せと過去から声が聞こえてくるのだ。  その声はウーヴェの人生を決定づけた男女のものであったり、またはこの左足の痛みを生み出す原因となった男のものであったりしたが、もう過去から解放されて良いのだと根気強く諭し抱きしめてくれたリオンのおかげで以前とは違って目も耳も心も塞ぐことなく、一度己の中にしっかりと受け入れてから心の中の決まった場所に収めるようにしていた。
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