LOVE.

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 見るからに消極的な顔のリオンがリビングに入って来た時、チェスをしながらケーキの焼き上がりを皆が待っている所だった。  一人ずつ挨拶をするのが面倒だった為、全員がこちらを見た瞬間を狙ってウーヴェがハロと一言だけで挨拶を済ませ、己の背後で何やらモジモジとしているリオンの腰を一つ叩いてソファに座れと促す。 「……リオン、昨日はご苦労様でしたね。あなたも怪我などしていなかった?」  ソファに座って顔を上げないリオンにイングリッドが労いの言葉をかけて問いかけるとようやくリオンの顔が上がり、いつもと変わらない優しい視線にもう一度顔が下がってしまうが、小さな声が大丈夫とだけ返す。 「お前に行ってもらって良かったよ」  午前中に刑事が聴取に家に来た時に詳細を教えて貰ったがヘクターでも気付けなかった事だと珍しく本当に珍しくギュンター・ノルベルトがリオンを手放しで褒めた為、流石のリオンも驚いたのか俯いた顔をあげて義兄の顔をまじまじと見つめてしまう。 「コニーといったか、彼もお前がいるからひどい事にはなっていないはずと思ったそうだ」  性格はともかくとして刑事としての働きには誰も文句をつけられないほど真摯で真面目だったことを刑事を辞めて時間が経過した今、当時の元同僚達がどの様に思っていたかも教えられたと滅多にリオンを褒めない−と思われているギュンター・ノルベルトの言葉にウーヴェの顔に自慢にも似た色が浮かび、リオンの口の端が嬉しさに震え出す。 「頑張ってくれたあなたにご褒美じゃないけれどケーキを焼いているわ」
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