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『ハロ、オーヴェ!』
遅くなったけれど迎えに来たぞと笑う顔はウーヴェが毎日見続けても飽きることのない、いつまで経っても子供のような満面の笑みに彩られていて、自然と目元を綻ばせたウーヴェだったが、その口から流れ出したのは遅いという一言だった。
「遅い」
『えー、これでも頑張って大急ぎで迎えに来たんだぜー』
だから遅いなんて言わないでくれとくすんだ金髪に手を当てて口を尖らせる顔すらも愛おしかったが、素直にそれを認めたくなかったためにチェアから立ち上がり、すっかり年季の入ったステッキをついてデスクに向かい、そこに尻を乗せる。
「すぐに迎えに来ると言ってなかったか?」
『んー、そうしたかったけどさぁ』
神様が意外と意地悪いで中々離れられなかったんだと言い訳を始める顔を見つめてもう一度遅いと呟くと、いつかの空を彷彿とさせる青い目が困惑に染まり、もーという不満の声が上がる。
『迎えに来たんだから喜んでくれても良いだろ?』
いつもいつも言い続けていたが、素直じゃないお前も好きだけど素直なお前はもっと好きと耳にすっかりなじんでしまった言葉を聞き、ふ、と息を吐くと同時に意地悪をしたくなった気持ちも吐き出すとリオンを手招きする。
「来い、リーオ」
『……へへ。お待たせ、オーヴェ!』
やっと迎えに来れたぜーと笑って抱きしめてくるリオンの背中を同じ強さで抱きしめたウーヴェは、クリニックを閉める準備をする間ぐらい待てるなと問いかけ、仕方がないと言いたげな嘆息をもらってじろりと睨むが、再度短く息を吐いてその腰に腕を回して窓際のチェアの前に向かう事を伝えて歩き出す。
お気に入りのチェアに再度腰を下ろすと肘置きにリオンが腰を下ろしたため、寄りかかるように上体を寄せると肩に腕が回される。
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