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「……いつかみたいな空だな」
『ん?』
「今日も雲一つない空だな」
『うん、そうだな』
風も気持ち良いぞと笑う声に同調するように口の端が自然と持ち上がり、ああ、気持ちが良いなと呟くと門が開いているからと小さな声が気持ちよさの理由を教えてくれる。
「そうか」
『うん、そう』
二人で二重窓の外を見ていると時の流れに溶け込んだ気持ちになり、本当に気持ちいいと目を閉じる。
リオンと結婚をしたときに天上にあるとされる青を自分だけのものにしたいと告白したが、今、自分たちの頭上を覆う蒼穹はあの時願ったものと同じ色をしていて、その色を宿した瞳を見たいと顔を見上げると、視線に気づいたのか小首を傾げられる。
『オーヴェ?』
「……何でもない」
『そっか』
それがいつもの口癖だと気付きながら、もうそろそろいいだろうと笑ったリオンに更に身を寄せたウーヴェは、いつだったかお前が言っていた事は本当だったなと呟き、そうだろうと胸を張っているような声音に自然と笑いがこみあげてくる。
「ああ」
約束を果たすのに時間がかかったけれどこの青に抱かれているから許そうと笑うと、オーヴェ大好き、愛してるというおどけた風を装った告白が耳に流れ込み、胸へと落ちて指先にまで伝わっていく。
その熱と重さはいつも告白されていたころと何一つ変わらないもので、ああ、と嘆息すると同時に誰よりも何よりも頼りになるリオンに寄りかかり、二重窓の外に広る蒼穹を見て満足そうに目を閉じるのだった。
淡い笑みを浮かべて己に凭れ掛かるウーヴェの白とも銀ともつかない髪に恭しく口付けたリオンは、喜怒哀楽のすべての感情を細い体で支えながら己が求める青に向けて一歩ずつ歩み続けた最愛の男をただ静かに抱きしめるのだった。
そんな二人の前、二重窓という枠に収まりきらない雲一つない青空が無限に広がっているのだった。
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