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はっとしました。瞼を開けたヴァルハイトはあたりが微かに明るくなっていることで長い夜が終えようとしていることを理解しました。いつのまにか寝ていたようです。ヴァルハイトは首の垂れた頭を起こそうとして自分が止まっていることに気づきました。ヴァルハイトというよりはこれまで一歩たりとも止まらなかった駱駝が止まっていたのです。
どうしたのか、と顔を上げた先に見えたのは小さな泉でした。駱駝から崩れる様にして落ちたヴァルハイトは両手両足を使って泉に駆け寄り顔ごと泉の中に突っ込みました。少し色は濁っていましたが、久しぶりの潤いに全身の細胞が喜んでいるのを実感できました。
さすがに息がきつくなって泉から顔を出すと、なんとアイザムの駱駝が対面にいて、悠々と水を飲んでいました。ヴァルハイトはすぐさま駱駝に近づきました。
「無事でよかった。ところでアイザムは? 君と一緒じゃないのかい?」
アイザムの駱駝は知らぬ顔でごくごくと喉を鳴らして水を飲み続けています。すっかり生気を取り戻したヴァルハイトは自分の駱駝が後ろで突っ立っていることを忘れていました。
「どうした? 君も喉が渇いているだろう。よくここまで連れてきてくれた。さあ、たんと飲むがいい」
何を話しかけても駱駝は動かず、睫毛の奥の瞳は黒く濁っていました。
ヴァルハイトは荷物をすべて下ろし、アイザムの駱駝に乗せ換えました。水筒に水を汲み、少し休憩したらアイザムの駱駝にまたがります。
「行こう。僕たちの一番星のもとに」
駱駝は背中を揺らして足を進めました。
すぐにじりじりと砂が泣き始めました。
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